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王の花嫁  作者: 川本千根
11/50

秘密

もちろんカエン様には言わなかったけど、私は一人毒の研究をしていた


私は復讐したかった

私の容姿を罵る人に

私と同じように理不尽な不幸を与えたいと思った


与えても死なず一生苦しむような、長く長く効く毒を作り出そうとしていた


人を殺す毒なら簡単につくれる

そうではなく私は人に生き地獄を与える毒を作りたかったのだ

何種類もの植物や粘菌類、鉱物を集め、ひたすら化合し続けた


ただれた顔も手もそのせいなのだ

私の醜さの半分はじぶんが与えたものなのだ


そんな私が神に選ばれるわけがない

王の花嫁に選ばれたのは…

きっと…何かの罰なのだ


では…カエン様は?

カエン様はいったいなんの罪で神に私を与えられたのだろう




寝込んでいたお父様が3日後にお起きになって

「前国王様に会いに行く」

と言われた


私はまだ体調もお悪そうだし付き添いを申し出たのだけれど

「大丈夫だ、一人で行く」

と行ってしまわれた


あの日から様子のおかしいお父様の事が気になって私は自分の悲しみに集中できずにいた




私が王宮に入って数日後、一人で前国王様に呼ばれた


カエン様は朝早くから貿易の交渉にくる南の大陸の船の出迎えに行かれた

今日はお帰りにならない


前国王様は数日前にお目にかかった時よりほんの少し顔色がいいような気がする


前国王様は私には

「ハナ、本を読んでくれ」

とおっしゃられた


私も看護の方もいきなりでびっくりしたけど、ちょうどお付の方が昔からの詩集を持ってらして、私は前国王様の枕元でそれを読んだ


途中でお食事とお薬の時間になったので退出しようとおもったのだけど、それを止めて前国王様は

「ハナ、食べさせてくれ」

とおっしゃった


周りの方たちも私も、さっきよりもっと驚いたのだけど、ご命令なので私はドロドロのお粥をスプーンですくってお口に運んだ


私は花嫁選びのために都に出発する前の日のことを思い出していた


私が住んでいたのは白国との国境近くの、都からは遠いところなので、何日も何日もかけてここには来た


候補になる娘はその村の長の責任によって集められ、王のもとに届けられる


出発の前の日、候補の娘は全員村長様の家に泊まってお祝いの接待を受けた

今まで食べたことのないようなご馳走が振る舞われた


もちろん私にも

だけど私はこの醜い姿と膿の発する臭いで他の娘が食欲をなくすからと一人別室で食べさせられた


前国王様は私の差し出す食べ物が汚く感じられないのだろうか?


お薬を飲ませて、今度こそ本当に退出しようとしたとき、手招きされて、小声で何かおっしゃった

聞き取れなかったので口元に耳を寄せた


「カエンには言うな」


それが前国王様のお言葉だった


もし私が美しい娘だったら前国王様は息子の若き花嫁に心奪われたのだと思うところだろう


だけど私は腐ったじゃが芋にまだらに毛が生えたような娘なのだ

心ばえも美しくない


あのお言葉がなければ今日のことは前国王様が醜い花嫁を家族として受け入れようと努力なさっていると取れた



私はカエン様に秘密を持った


前国王様のお心は謎のままだ





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