新しいすみかを求めて
家でも居所がなくなりつつあった僕は、完全昼夜逆転生活をし、なるべく両親とも顔を合わせないように引きこもった。はじめは両親もそんな僕を放っておいてくれたが、やがて、わざわざ部屋に様子を見に来るようになる。
どうすればいいのか。
動き出しても良いとは思う。でもまだ、体がとても重い。
それでも、家にいる息苦しさの方がどんどんと増していく。いたたまれない。存在していたくないとすら時折思えてしまう。
昼に寝て、夜に起きる。毎日その繰り返し。何を成し遂げるわけもなく、ただただ日がすぎるのを待っている。暇つぶしにはネットサーフィンはもってこいだ。僕は夜通しパソコンの前に座っていた。
体を動かそうという気になどならなかった。昔はこれでもバドミントンでならしたというのに。
家の中での息苦しさがたかまった時、僕は衝動的に家を出る手段を探した。
何でも良い。できれば住み込みのような家が提供されるところがいい。一人で住めば今のこの生活サイクルから抜け出せるとは到底思わなかったし、そもそも、会社時代の貯金はあるけどそれほどたくさんあるわけではない。
そんな時、僕には地方で都会からの人を呼び込むプログラムがあることを知った。
僕が見つけたのは一年の家賃補助。その間に付近で仕事を探せということらしい。
突発的な衝動に駆られて、気がついたら僕は申し込みフォームを埋めて送信していた。
返事は翌々日に来た。
そこには、僕が選考に通った旨が書かれており、おまちしております、という言葉がならんでいた。
会社で体調を崩し、家族からも疎まれ始めた今、僕を待っていてくれる人などいるはずもないと思っていただけに、この言葉は不意打ちだった。
魔法にかかったように、僕はすっかりその気になって、具体的な日時や手続き方法を問うメールを返信した。
そこからは早かった。というよりも、一気に動いてしまわなければ、今の場所から脱出することはできないという危機感があった。
父にも母にも詳細は告げず、仕事があるから働くことにした、といって家を出た。
はじめにメールが返って来てから、一週間もたたないうちに僕は家を出た。
自分でも、これほど迅速に動けるとは思っても見なかった。
父と母はそれはまともな仕事なのか、とかどうしてそんな遠くで、とか色々と聞いて来たが、僕が得意とするコンピューター関係の仕事なんだとかなんとか言ってごまかして来た。
本当は住むところが決まっただけで、仕事が決まったわけではない。
すぐにがっつり働けるとも思えない。とにかく疲れやすいのだから。
最初はバイトでもいいはずだ。一年は補助がでる。それと蓄えを足し合わせればなんとかなるはずだった。
僕が、新しいすみかとして選んだのは、これまでの僕の人生とは全く関係のない場所だった。
そこは山に囲まれて冬には深い雪に埋もれる、その昔、鉱山で栄えた町だった。