平穏
10年後
ダウンタウンでは音が尽きない。ネオシティの電車の音、車の音、ダウンタウンの鍛冶屋の音、喧嘩の音、そんな騒音の中を俺たちは過ごしていた。
「起きろー!仕事の時間だぞ!」
「仕事も何も、潤。夜中からだろ?」
「あー!もう!元さんに起こせって言われたんだよ!いいから起きろ!命の恩人の命令だ!」
「はぁ…。わかったよ。わかったけどな、その命の恩人だぞってセリフはいい加減勘弁してくれ。」
俺には十年前以降の記憶がない。わかっているのは、俺が倒れているところを新堂潤が見つけて元さんのところに運んでくれた、それだけだ。
元さんも鍛冶屋の仕事をしており夜中以外に音が尽きることがない。潤はよく、うるさいというが俺はこのそうぞうしさが好きだ。
階段を降りると、元さんがニコやかな笑みを浮かべていた。
「やっと起きたかい。死んじまったかと思ったよ。」
「勝手に殺すな。」
ふぉっふぉっふぉっ、とどこかわざとらしい笑い方をする。
「お前さんたち今回の仕事はネオシティなんだろ?」
「潤!お前!言ったのか!」
「いやぁ。問い詰められたら逃げきれなくて。ごめん!」
「あのなぁ…。」
俺と潤は掃除屋をしている。掃除屋といっても箒や掃除機で綺麗にするわけではない。
ライバル企業の極秘情報を盗んだり、殺人の隠蔽。時には暗殺まである。客層は主にネオシティの富裕層で時には政府からもくる。
今回は政府からの依頼だった。
掃除屋の基本原則として守秘義務がある。それは、その仕事を終えたあと生きて家に帰るためには必ず守らなくてはいけなかった。
「お前さんたち、今回はステートタワーに行くのだろ?あそこにはネオシティの軍の中枢があるはずだが…一体、なにをするんだ?」
元さんは時々鋭い目をする。血に飢えた狼のような目だ。
俺はそんな目が怖かった。
おもわず顔をそむける。
「元さん。言っているだろ。生きて帰るために俺らはそれ以上のことを言えない。わかってくれ。」
「…。」
沈黙が流れる。俺は今だに元さんの顔を見れなかった。
見てしまうと心が揺れてしまいそうな気がしたからだ。
「それもそうじゃの。」
ふぉっふぉっふぉっ、と笑い声がする。溜まっていたものがドッと溢れた。元さんが手袋のようなものを手渡してきた。
「まさか、正面からのりこまんじゃろ?これを使え。コレは金属に反応して磁場を作ることのできる手袋じゃ、200kgまでなら耐えられる。これで壁を昇るといい。ロープなんかよりはずっと頼りになるだろう。」
「ありがとう。元さん。」
「ふぉっふぉっふぉっ。生きて帰ってくるんじゃぞ。」
「元さん…」
顔を上げると元さんは工場へ消えていた。
潤が心配層に俺を見る。
「大丈夫か?」
「あぁ…。悪いがもう一眠りする。時間になったら起こしてくれ。」
「わかった。」
体がフラフラするのを耐えながら俺は自分の部屋へと戻った。