その6
派遣先の決まった魔道士は、十日以内にその院にいかなくてはならない。魔道士規定の第七章、十二項の内容だ。基本的に魔道士は院内に住むものなので、働き先となる院に引っ越さなくてはならないのである。ちなみに魔道士規定は第一章から第十二章まであり、中でも第七章は新人魔道士の行動規定が書かれている。書いてあるのは魔道士手帳という、魔道士であることを証明するための手帳だ。魔道士の証明方法にはカードも存在するが、手帳のほうが偽造不可能のため、信用度は高い。
そのため、どんな嫌な場所でも一度は引越ししなくてはならなかった。ため息とともにキャリーの中に物を詰めていく。キャリーといっても、この国では一般的な魔術カバンの一種だ。量に制限がなく、いくらでも持ち運べるのが特徴である。もちろんキャリーの口に入るサイズでなければならないが。
ふと研修の時の教科書に目が行く。なんとなくあさった資料の中に、院の説明書を見つけた。パラパラめくると、四院である蒼春院は、初めのほうに大きく書かれている。
―――蒼春院
別名「東院」。黄央院東方に位置する四院の一つ。現在十五名が在院。院長はティム・トムズ。在院魔道士は蒼藍と呼ばれる。人数が最も少ない院でありながら、ほかの四院に劣らぬ力を持つため、四院最強とも言われている。ここ五年あまり、新人が全く入っていないことでも有名。
―「魔道士院一覧」より一部抜粋―
「四院最強」という言葉が、ロジーナにとってはかなり重たい。どんな魔道士院でも在院人数は軽く六十を越える。しかし蒼藍の人数はたった十五人しかいなく、自分が十六人目だと思うと不安が生まれる。
「行きたくないなぁ」
誰にも聞こえないのをいいことに、本音を漏らす。いくら不人気の蒼春院と言えど、四院の一つには変わりはない。こんな本音が聞かれれば、袋叩きに遭うだろう。結局どんなに願っても、仕事をしなければ移院すら叶わないのもまた事実。とりあえず簡単な仕事を一つ、さっさと終わらせて、誰の記憶にも残らないうちに移院しようと決心した。
少し悩みましたが、本作品は毎週火曜・金曜に三話ずつ、更新しようと思っています。