その2
彼女は彼らから少し離れると、そこで右足を左足にくっつけた。すると彼女の足元に、新たな紋が生まれる。一般的な召喚魔法の一種である、朱雀の紋だ。
「繋がれ!『緇水門・柳星』」
合図とともに、彼女の足元の紋から小さな花がぽんと咲いた。柳星という天霊は、珍しい、花の形をした天霊なのである。フグリのような小ささに、ビルは可愛らしく思い、残り二人は眉間にしわを寄せた。役に立たない。そう思っているのだ。
が、その考えは甘かった。
フグリサイズの花はタンポポ、百合、ヒマワリとどんどん大きくなり、最終的には車と同じほどの花となった。その真ん中がクパッと開いて、雄しべのように統一に並んだ、鋭い牙が姿を現したのだ。もう可愛いなんて言っていられない。その姿の相手に、ロジーナは平然と依頼する。
「ツァンファ、アルバートを呼んでくれる?」
抽象的なお願いに、ツァンファはしばし固まった。喋っても動いてもいないが、困っているのが解るのがすこしおかしい。少しして、その葉がうねうねと動き出す。花が大きく息を吸ったかと思うと、一気にそれを吐き出した。吐き出した息には、花粉が混じったのか赤っぽい粉が舞う。
「花粉症にはきつい魔法ですね」
独り言のようにも取れる言葉で、ビルは隣にいるシュールに同意を求めた。が、彼はそれを無視してほかの言葉をつなげた。
「光景が難だな」
難、とはグロテスクだということだ。本基を前にそんなことは言わないが、苟芒とは違い、お世辞にも綺麗とは言いがたかった。ちなみに天霊は基と数えるのが普通だ。
そんな中、がたがたと音が聞こえてきた。アルバートである。
実は、柳星の花粉というのは個体差が激しい。というのも、色が全基が違うのではないかといわれるほど豊富にあるのだ。また、天霊の色彩感覚は人間の数百倍とも言われており、人が見ても同じに見えるような、本当にわずかな違いでも、はっきり違う色として判断できる。そのため、アルバートはツァンファの出す花粉の色だけで、ロジーナからの合図だとわかったのである。




