その5
待合室に帰ってきたロジーナを、復活したジェシカが迎えてくれた。彼女同様浮かない顔をしていたロジーナに、小さな声で院を尋ねてくる。好奇心だけではないことは解っているので、苦笑いとともに院の名前をこっそり告げた。が、この静かな空間では漏れ聞こえてしまうらしい。そしてそれが四院の名だっただけに、周りにいた新人達が振り返って彼女に注目する。だがしかし、そこに羨望するような雰囲気は感じられない。聞いてきたジェシカが、ぽつりともらした。
「あたし、碧空院でよかったかも・・・」
ロジーナと違い、上昇志向の高い彼女がそんなことを言うとは思わなかった。そして理解する。
蒼春院には何かがある。
それを聞こうとしたとき、周りの生徒達が口々に言い始める。
「あの子、蒼春院だって」
「ええ!あの、行きたくない院十年連続一位の?」
「俺、派遣された魔道士が毎回泣いて帰ってくるって聞いた」
「研修浪人が言うには、毎年派遣されるのに、一ヶ月たたずに移院するんだってさ」
ちなみに研修浪人とは、一次試験は合格したが、研修の成績や最終試験の成績で落ちてしまった人たちのことだ。仮免許が通る一年間、彼らを研修浪人と呼ぶ。
よくそんなに嫌な話題がとめどなく出てくるものだ。耳をふさぎたくなるが、これからの職場への好奇心が邪魔をする。しかもまだまだ話は終わらないようだ。今度は仕事仲間となる人たちの話題へと変わる。
「なんか、蒼藍って変なやつが多いんだってさ」
「知ってる!眼鏡と目隠しと仮面でしょ!不気味よね」
「うっわ、あの子かわいそう。あ、でも、あの子が行くなら、私達は安泰ね」
みんな言いたいことを言ってくれる。ロジーナはその悲しみに苛立ちながら、荷物をまとめるためにジェシカとともに黄央院を出た。