その6
ビルに遣わされたロジーナは、あわてて崖のほうへ走った。
「開通、『朱雀院・祝融』」
聞きなれない名前の紋と天霊に、ロジーナはつい足を止めてそちらを見た。ビルの足元に浮かぶ紋はまったく見たことがなく、彼女はまじまじと観察してしまう。トカゲ型の天霊はいくらか知っているが、祝融は知らなかった。
天霊がモグラと戦い始めてから、彼女ははっと我に返る。
「こんなことしてる場合じゃないじゃん!」
大きな独り言のあと、彼女は村人たちの元へ急ぐ。
ここまで進出してきたモグラは、あの個体以外いなかったのだろう。崖は多くとも、道はきちんと開けている。村人たちまでの空間は平地で走りやすく、鈍足な彼女でもすぐに崖のふもとにつくことができた。
もたもたと走ってきて息を切らす彼女を、村人たちは不思議そうな顔で見てくる。鈍足な彼女の速度は、他人から見ると本気で走っているようには到底見えないのだ。
―――そんな目で見ないでよ!
運動音痴が大体思う感想を、例に洩れず彼女も抱いた。いくら遅くても、彼女は全力疾走してきたのである。
ある程度息を整えてから、彼女は村人を見る。数世帯の人間が固まって避難していたようだった。その中に、初めて見つけた村人の少年を発見する。思わず彼に駆け寄った。
「大丈夫だった?」
「どうなってるんですか?」
彼女の質問に返したのは、少年の兄だった。世帯で逃げているのであれば、兄がいるのも至極当然のことだ。すっかり度外視していた存在の登場に、ロジーナは心の中で嫌な顔をする。尋ねているというよりも、問い詰めている要素の多い言葉に、彼女は真面目な顔で返した。
「この場を離れてください。村にはもうモグラはいません」
「無理に退治に来て、村を荒らして。信用できる要素がありません」
正しく言うなら、町を破壊したのはモグラであって彼女らではない。しかし兄の非難はこの場にいる全員を代表して物のようだった。が、彼らが退治に来なければ、今がマシだという状況になっていただろう。村の真下まで伸びていたモグラの巣を考えれば、すぐにでも解る結論だ。しかし、彼らは今、責めるべき対象を探していて、彼女がたまたまそれに選ばれてしまっただけである。




