その3
「必要ありませんよ」
妙に余裕を見せるビルは、ぐるぐるマークの眼鏡を外した。開いているのか解らないような目が、姿を現す。更に左の前髪を掻き分けた。もう眼前に瓦礫は迫っている。彼は避けずに、クスリと笑う。
「『発動・光折の盾』」
彼は目を大きく開いた。途端に、目の前で瓦礫が粉砕される。隠れていた瞳には、はっきりと魔方陣が浮かび上がっていた。武の魔法でありながら、物体を具現化させない特殊な紋、防御の紋である。
契約者の安心を認識した蜥炎は、もう自分を見ていないモグラに向かって、灼熱の火を噴いた。そして叫ぶ。
『汝の相手は儂なるぞ!』
モグラは祝融のほうを見ると、先ほどと同じような瓦礫を連続で吐き出す。しかしすばやい祝融に当たることはない。尖った岩が、次々と地面に突き刺さった。
不意に、後ろの水壁が消える。イルが魔法を解いたのだ。
「わりぃ!時間食った!」
バタバタと羽音を立ててイルが姿を現した。続いてシュールも走ってくる。蜥炎とモグラの戦いを一瞥すると、シュールが呟く。
「結界などさっさと解いてしまえばいいものを。ビルの苟芒なら一発だったろう」
もちろんこれにカチンときたのは、村人に気を遣ったつもりで結界を張ったイルである。
「うっせぇな!お前がさっさと結界張ってりゃあ、『水壁』も必要なかったんだよ!」
イルやシュールの使う発現系魔法には全てに結界技が存在する。使える使えないに個人差があるのは確かだが、少なくともシュールは葉の魔法の結界魔法は使える人間だ。しかし残念なことに、そんなことで反省するほど、この男は大人ではなかった。




