その1
結界範囲からほど遠くない所で鳴った音に、ビルとロジーナは向かっていた。
「報告と数が合いませんね。きっと眠っていた大ボスか、成長したての子供が今回の騒動で出てきてしまったのでしょう」
差の激しい二択に、ロジーナは思わず、子供であることを願った。ほか三尾があの大きさでは、ボスはそれ以上大きいに違いないと思ったからだ。結界に沿って走っていくうちに、元いた場所の反対側に出る。
そこは多くの崖がそびえる村の裏側だった。村周辺には山がないと踏んでいたロジーナの予測は、ここでも大きく外れる。地図では大きな山や山脈しか載らないが、このあたりには小さな岩山がちょんちょんと並んでいるのだ。そのため、崖が多いわりに地図はすっきりとしているのである。
飛び出してきたモグラは、大きさから見るに子供のようだった。彼女の願いは届いたようだ。しかし外に慣れていないせいか、パニックを起こしている。そして子供とはいえ相手は大きく、かなり厄介な状態になっていた。彼女はすこし後悔する。図体は大きくても、考えて動いてくれる相手の方が楽だったかもしれない。
不意に、その眼が動くものをとらえた。
逃げ遅れた村人達が、奥の崖の付近で固まっていたのである。結界側に出てきたモグラにびっくりして、とりあえず奥に向かってしまったに違いない。村外退避を促したのは、ほかでもないイルだ。彼の魔法は間接的な避難勧告を兼ねる。慌ててビルが口を大きく開けた。
「皆さん、早く逃げてください!」
しかしパニックを起こした竜に恐怖してか、人々は動かない。その後何度も叫ぶも、モグラの暴れる音までが邪魔をする。仕方ないと握りこぶしを作ってから、ビルはロジーナに指示を出した。
「アレの相手は私がします。あなたは村人を避難させてください」
「相手って、一人でですか?」
現在大人のモグラと戦っている二人と、ビルの間にどれほどの力の差があるのかわからない。が、少なくとも二人を足したのと同量の魔力を、ビルが所持しているようには思えなかった。なぜなら有翼人種は他人種に比べ、魔力の量が遥かに多いためだ。全てにおいて最も平均的なフト族である彼に、その力があるなんて事実は、天地がひっくり返っても存在しないだろう。技術となれば話が別なのだが。
しかし、ビルは笑って答えた。
「なぁに、ただ『相手をする』ってだけですよ。倒すわけではありません。それとも逆にしますか?」
聞かれずとも、ロジーナには自信がなかった。すぐに負けてしまうのは明白すぎる。そしてすぐに負けてしまってはあまりにも意味がない。落ち込むロジーナを残して、返事も待たずにビルはモグラのほうへ歩を進めた。
にやりと不敵な笑みを浮かべる。それは余裕などではない。ただ、自信がないために生まれたわけではないのも確かだった。
「さ、何年ぶりですかねぇ?一人で戦うなんて」




