その16
そのままその場を立ち去ろうとすると、後ろでぼそっとロジーナが口を開く。
「憧れてたのよ」
「・・・・・・」
物凄く面倒くさそうな顔で振り返ったのだが、彼女が彼の顔を見ていなかったので、その表情は伝達の意味をなさなかった。しかたなく、その場でまた足を止める。
「小さい頃、蒼藍の人に助けてもらったことがあるの」
見えずとも目を丸くした。所属前に蒼藍に出会う人間はなかなか希少な方だ。全くいないわけではないが、何らかの特殊な環境にいる必要がある。
普通ならここで「一体どんな村に住んでいたのか」と気になるところだが、イルはただ彼女をじっと見るだけだった。完全に聞くだけのつもりなのが、第三者からもすぐに解るような態度だ。
「だから・・・悔しい」
「・・・悔しい?」
聞くだけのスタンスはほんの数分で壊された。ここで悔しいという言葉が出てきたことが理解できなかったのである。
聞き返されて初めて、彼女はイルを見た。
「悔しいわよ!信用されてなかったみたいで・・・」
蒼藍に選ばれたことを嫌だと思った気持ちは事実だ。だが、少なくとも選ばれたからには、仕事を投げ出すような人間ではないと信じてほしかった。信用してほしかったのだ。けれども今までの人達や、来たばかりの時に彼らの服装にとっつきにくそうにしていた自分を信じて、きちんとすべてを話してくれなんてお願いは、かなうはずもないことだ。そして彼女はそれも解ってしまっているから、言い返すこともできず、悔しさだけが胸の奥底からにじみ出してしまっている現状なのである。
そのことを長々と語った彼女に、イルはため息をついた。彼女は考え過ぎだ。そこまではビルだって考えてないだろうし、イルやシュールだって配慮できない。でも。
「解ってんなら、いいんじゃねぇの?」
ちらりと視線を向けると、ロジーナが大きな目で彼を捕えていた。あまりに純粋にこちらを見ているので、少し気恥ずかしくなる。
「いいんだよ。信頼しろって言やぁいい。言えないなら一言『悪ぃ』って言やぁいいだけの事だ」
その言葉を彼女がどうとらえたのか解らない。イルは確認も取らずに、今度こそ宿の外に出て行った。
その後、結局彼が帰ってくるまで、彼女が部屋に戻ることはなかった。




