その13
「反魔道士思想についても知りませんよね」
ロジーナが首肯すると、ビルはその下に矢印を引いて「フォード・ライン」と書いた。見覚えのある名前に、つい口を挟んだ。
「フォード・ラインって、思想家ですよね?魔道士についての有名な・・・」
「よく知ってますね、そうですよ。彼の思想については、やりましたか?」
名前を知っていたのは、独学で使った参考書にさらっと載っていたのを、なんとなく覚えていた程度だ。詳しく載っていたわけではないので、知っているのは本当に名前だけだ。それを素直に言うと、ビルは「名前だけでも充分だ」と褒めてくれた。本当にセクハラ発言と外見をのぞけば、彼は理想の上司である。
「彼の思想の代表が、この反魔道士思想なんです」
そこでロジーナは再び疑問を挟んだ。
「あれ?フォード・ライン自身は、魔道士ですよね?」
かじっただけの知識なので、その正誤は不明だ。そのため、少し不安になる。
「はい。ですが、彼は魔道士を不平等の象徴としたんです。魔力がない人が言ってもただの僻みですが、発言したのが現役の魔道士となれば、思想として確立しやすいと思ったのでしょう。事実、反魔道士思想は特殊能力民族を中心に深く根付いています」
魔道士が魔道士批判をするとは、なかなか皮肉な思想だ。
ほかにもビルはいろいろと教えてくれた。が、簡単に言ってしまえば、みなが持っているわけではない力を、職業として、はたまた国家公務員として扱うのはおかしい、という思想のことである。そのため、それを主義化して、魔道士に頼らず生きるという信念を反魔道士主義「フォディズム」、主義主張者を「フォディスト」と、魔道士たちは呼んでいるのだという。
この村がフォディストの村だというのなら、すなわち蒼藍たちは望まれざる客、ということになる。旅館の女将の態度も、あの少年の兄の態度も納得がいくというわけだ。
思想名や呼び名までは知らずとも、その考えを彼女は稀有なことに、聞いたことがあった。が、ここまで如実に行動に移す人々を見たのは初めてだ。
びっくりしたロジーナの顔をみて、残りの二人はショックを受けたと勘違いした。イルが心もとないフォローを入れる。
「まあ、相手にしねぇのが一番だ。俺たちは仕事さえやりゃあ、もう関わるこたねぇよ」
確かに特定の人と関わることはないだろう。だが、その思想を持った人たちと関わることは、充分にありえるはずだった。
ロジーナは思わず振り向いて、ビルに問う。
「あの、こういう事があるなんて聞いてません!」
「あれ?言いませんでしたっけ?」
平然といつも通りに返してくるビルに、彼女は我慢ならずに泣きそうな顔で部屋を出た。




