その12
不機嫌な顔のロジーナと飄々としたシュールの二人を、ベッドでイルが元気に迎える。起きたてなのか、頭がぼさぼさだ。
「よお、お疲れ」
「一番に寝やがったものぐさが何を言う」
シュールの怒りの言葉に、イルがケタケタと笑い出した。会話がかみ合っていない。それでもいいのか、イルは自分で獲得したベッドにあるビニール袋をあさりだした。そして中から何かを取り出す。
「ほい、ほうびだ、新人もな」
ロジーナとシュールに向かって、彼がそれを放った。上手にキャッチしたロジーナは、そのひんやりとした感触にびっくりする。初仕事のごほうびは、少々暑いこの地域ではありがたい、アイスキャンディーだった。全部閉まってるんじゃないかと思われる店から、どうやって買ってきたのかは不明だ。匂いでも辿ったのではないかと、ロジーナの中で、「イル、スメル族説」が固まり出す。
しかし、シュールはそれをテニスのように打ち返した。拒絶されたアイスを、イルが上手にキャッチする。息があってないとできないと思う芸当だ。
感心するロジーナに気付くことなく、イルに殺意を向ける。たったアイスを投げただけの彼に、だ。彼の紳士的な一面が出てくるのかと思ったが、まったく違った。
「貴様、俺を凍死させる気か!」
「アイスで死ぬやつあいねぇよ」
腹を抱えて笑い転げるイルを、殺意を強めた目でシュールが睨みつけた。が、残念ながら今のはイルのが一般論といえよう。どっちにせよこの暑さの中、コートにハイブーツの彼が浮いていることに変わりない。
イルのせいでシュールは一気に不機嫌になった。彼の大人気なさを感じる一面だ。それを見て、今まで黙っていたビルが口を開いた。
「改めてお疲れ様です、お二人とも。情報収集はできましたか?」
「情報収集もねぇな。ここはフォディズムだろ」
「フォディストの村って言うほうが合ってますけどね」
にこやかなビルに訂正を受けたシュールを、イルがまた笑い出す。聞きなれない言葉に、ロジーナは眉間にしわを寄せた。電車の中で言っていた「そういうこと」というのは、フォディズムのことだろう。それは彼女にもわかる。しかし。
さんざんなシュールは怒ってテラスに出ていった。短気なほうとはいえ、嫌なことをされ続ければ怒るのも当然だ。
喧嘩するほど仲がいいとは言うが、三人の仲のよさに疑問を持つ。けれどもそれどころではない。恥ずかしながら、ロジーナはある疑問をビルにぶつける。
「あの、さっきっから言ってる『フォディスト』って?」
「ああ、言ってませんでしたっけ?」
またこれだ。ロジーナは呆れる。アレだけ馬鹿にされた内容だけに、聞くのにも勇気がいたのだ。疎ましげな顔でビルを睨む。
「言ってません」
「それはすみませんでした」
そういうと彼は大きな姿見の上に、どこからともなく出したマーカーで字を書いた。毎回毎回、一体どこから出しているのかと、ロジーナの中の疎んだ気持ちが感心に変わる。書かれた字は「反魔道士主義」。初めて聞くロジーナだって、どういう思想なのか字を見て大体解る。ビルもそう思ったのか、彼はいきなり詳しい説明に踏み入った。




