その10
解けない謎に匙を投げ、諦めて素直に聞いた。すると、彼なりに言いつけを破った罪悪感があるのだろう。おびえた様子でたどたどしく、言い訳っぽく口を開いた。
「だって、ネフリアとか、サンゼスとかと、あそぼうって、きのうやくそくしたから・・・」
「出てきちゃったの?」
「すぐかえるつもりだったんだよ?あそべなくなっちゃったっていって・・・」
その結末は見てのとおり。全員に避難通告が行き渡り、子供たちの約束は自然消滅したわけである。きっと残りの子達も、親が家から出ないように見ているに違いない。抜け出せた彼は運がよかっただけである。
ぽろぽろと泣き出す少年を励ましながらも、彼の話を頭の中で復唱する。
彼はさっき、昨日遊ぶ約束をしたと言った。昨日までは町は活気付いており、子供たちが遊ぶ約束ができるほど、平穏だったことになる。そして今朝、唐突に外出禁止令が出た。ずいぶんと急に。
魔物が迫っていることを村人が知っているのか知らないのか、そこは定かではないが、少なくとも避難警告を出したにしては中途半端だ。
魔道士規定第五条には、住民への避難指示について書かれている。そこによると、自宅に籠もる「家塞避難」は、小型種のみに限り、半径十キロ以内に群、もしくは巣があるときに適用される。多くの小型種は、巣より半径十キロを行動区域とするためだ。これは巣が発見され次第、すぐ黄央院から呼びかけがかかる。
しかし今回の場合、「殲滅」ではなく「討伐」と聞いている。魔道士社会でのこの言葉の違いは、結構大きい。なぜなら、殲滅は巣を一つ根絶やしにすること、討伐は巣から逸れた中・小型種および単独行動を行う中・大型種を追い払うことを表すためだ。蒼藍が四人がかりで向かうことから考えれば、今回はおそらく後者だろう。
言い換えればすなわち、この村の近くに魔物の巣はないということになるのだ。
さらに同じく魔道士規定第五条によると、今回の場合、最寄りの市町村への一時避難が適用されるはずである。もちろん魔道士が来るとわかっている場合は、まったく避難しないという選択肢が用意されているのも確かだが。しかし「家塞避難」が中途半端なのは変わらぬ事実だ。しかも多くは避難勧告前に異変が起こり、村人たちが自主避難している。つまり、前日まで活気付いている、という状況は非常に稀なのだ。そのためロジーナの推測は外れていると言っていい。
彼女が情報に翻弄されているその時、後ろから声がかかる。振り返るとそこには、中学生くらいの少年が駆け寄ってきた。彼は忙しなくお辞儀をくり返しながら申し出る。
「すみません、うちの弟です」
ロジーナが返事をする前に、弟は兄に泣きついた。イヤに静まり返った町が、怖かったのだろう。頭をぐりぐりと撫でながら、兄は弟に小さな説教をする。それをほほえましく見ていると、兄はロジーナのほうを見た。
「ありがとうございます。何か足りなくなったんですか?」
「ああ、いえ、別にそうじゃ・・・」
彼女がそれを否定しようとしたとき、泣いていたはずの弟が安心しきった顔で兄に言った。
「あのね、おにいちゃん、おねえちゃんはおそとのひとなんだよ!」
「・・・外の人?」
兄の顔が歪んだ。今までの愛想のよさはどこかへ行き、敵意すら感じる目を向けてくる。口調も淡々としたものになった。
「もしかして、魔道士の方ですか?」




