その9
ともあれすぐに後を追ったロジーナだったが、下の階にシュールの姿はもうなかった。宿を飛び出してもその姿は見つからない。もう無理だと、彼女は早くもお礼を言うのを諦めた。
お礼は帰ってきてからでいいとしても、彼女は手ぶらでは帰れない。誰からも期待されていないのだが、だからこそ見返してやりたい気持ちもあったのだ。
謎の使命感を背負ったロジーナは、村の大通りを歩いていく。窓どころか雨戸すら開く様子もなく、本当にゴーストタウンのようだ。だが、感覚的に人の存在を認識していた。実際宿の人がいて、しかもテレビを見る余裕があるわけであるから、避難警告がきたというビルの推測が外れたことは明白である。
村人が出てこない原因を探っているとき、半ば諦めていた村人を発見した。
まだ小学生も低学年ほどの子供で、服装からして少年とみる。ゴーストタウンを一人うろうろと子供が徘徊する絵は、まるで昔の絵画の一枚のようだった。寂しさのほかに、おどろおどろしさも感じてしまうだろう。
ロジーナは少し離れたところから彼に話しかけてみた。
「ボク、どうしたの?」
いきなり話しかけられた少年はビクリとして、近づくロジーナと一定の距離を保とうと退く。怖がられてしまった彼女は、その場にしゃがみ込んで、自己紹介からはじめる。
「あたしはね、村の宿に泊まってるの」
宿名は言わずとも、この村に一つしかないので宿泊先の断定は楽だ。こんな小さな子供でも、すぐに断定できたようだ。少年は目を丸くして驚いた。
「おねえちゃん、そとのひと?」
外の人という言い方から、彼女は少年が村出身者だと確信を得た。古びた田舎の村で子供がよく使う表現だ。町並みが整備されているわりに、なかなか田舎じみた色味がある。
それを肯定すると、少年はおろおろと戸惑い始める。怖がらせていると思ったロジーナは、手短に用件を聞くことにした。
「村の人は、みんなどっかに行ってるの?」
避難などの熟語をどこまで知っているのか見当もつかず、いやに子供じみた話し方になる。言ったことで少し恥ずかしい気持ちになった。子供慣れしていない証拠である。それを知る由もない少年は、首をかしげた。
「?パパもママも、おうちにいるよ?」
家の外に出ないという避難方法も、使用例は少ないがありはするため、彼女は村人がその方法をとっているのだと判断する。
子供のつたない言葉と、試験と研修の知識で、彼女なりの情報を作り出す。根拠も特定要素もはなはだ少ないが、彼女は役立っている錯覚に舞い踊る。しかし、そこでふと気付いた。
なぜ、少年は言いつけを破って家を出てきたのか?
子供がルールを破ることを不思議には思わない。が、今は友も出られなくて、店だって宿以外閉まっている。宿だって、蒼藍たちが来るまでは開店休業だったはずだ。




