その8
「紳士ですよねぇ」
そうビルが笑う。いつの間にか、彼はソファーの荷物を上から下ろしていた。我に返ったロジーナは、振り返ってビルを見る。そして先ほどの言葉を思い返した。
「し・・・紳士?」
「そう思いませんか?」
「・・・とてもじゃないけど」
彼女は当然の感想を抱く。確かにセクハラから助けてはくれたが、カバンを投げるわ、大きな音を立ててドアを閉めるわ、前半の紳士的側面を打ち消している。真逆とも言える乱雑さは充分に感じたが。
その考えを告げると、ビルに笑われてしまった。彼も思うところがあるという。しかし彼はそれから、ロジーナのカバンを指す。シュールがベッドの上に置いてくれたものだ。
「カバン、紳士的じゃないですか」
「カバン、ですか?」
ロジーナはピンクの花柄のカバンを見る。彼女のカバンとロジーナの紳士的なのところがどうつながるのか、彼女は疑問を抱く。ビルの説明はいちいち遠まわしだ。
「入り口付近に置いてあったでしょう?じゅうたんが引いてあった廊下や階段で、キャリーを運んでいたじゃないですか。室内も床がじゅうたんなので、運ばなきゃいけないと思ったのでしょうね。でも、女の子にとってはやっぱり重いでしょう?階段廊下で助けられなかったですし」
そんな話まで持ってくるのかと、ロジーナはあきれる。彼女としては、自分の荷物を運ぶことに手助けはいらない。その気遣いは、不思議に感じられるものだった。ビルは更に続ける。
「しかも、ここまでの道のりは風が強かったですから」
そういって、部屋に一つしかない鏡を指した。ロジーナがなんだろうとのぞきこむと、ひどくぼさぼさ髪の自分が映る。先ほどの風にやられたようだ。驚く彼女を、楽しそうにビルが見ている。
「ブラシやくしはキャリーの中だと思ったんでしょう。取り出すときに持ち上げなくてすむように、わざわざベッドの上に置いたんですよ」
「じゃあ、ビルさんのカバン投げたのも・・・」
「ベッド付近において置いたら、あなたが邪魔だからでしょうね」
言われてみると確かに紳士的だ。だが、そこまで気を遣われると、なんと表現してよいのやら。そら恐ろしさすら感じる始末だ。カバンを投げた事実も変わらない。乱雑さを差し引いてゼロと言ったところか。
しかし、そこまでされてお礼を言わないわけには行かない。ロジーナが部屋を出て行こうとすると、察したビルが情報を与える。
「シュールは情報収集に行ってくれたんですよ」
「え?不快でだから出てくって・・・」
「口下手なんです」
口下手レベルの話ではないと、ロジーナは感心を超してすこしひいた。




