その6
階段を上り終えてちょっと行くと、すぐに部屋についた。深緑の塗装がところどころはげていて、金色だったドアノブも金がはがれて鉄の色が見える。しゃれっ気もないシンプルな鍵穴に、同様にシンプルな鍵を差し込む。ぐるりと一周回すと、ガチャリとなって鍵が開いた。
きしむ扉を開くと、意外と広々とした空間が目に飛び込んできた。予想していたとおり、きれいというわけではないが、だからといって汚いわけでもない。落ち着けるつくり、とでも言えるだろうか?木でできた薄茶の壁に、淡い緑のじゅうたんが、まるで芝生のように敷かれていた。田舎生まれにとっては、最高の色合いだ。
大きく開いた窓に、ロジーナは思わず飛びついた。町を一望するには充分な高さがあり、風景は最高だ。窓ガラスだけとても綺麗に磨かれていて、窓を開けずして風景を楽しむことができた。きっと同じことを多くの人がするだろう。桟も真ん中だけみごとにへこんでいた。
感動する彼女の斜め後ろで、何かが倒れこむ音がした。驚いて振り返ると、イルが真っ白なベッドの上でつぶれていた。
「こいつ、もう寝てやがる」
なぜかいらだっている様子のシュールに、ロジーナは少しおびえる。ただでさえ姿がようなのだから、怖さが増すのである。おかげでさっきから、彼女はおびえっぱなしだ。
しかしその原因も状況を見て、彼女はすぐに理解する。
ベッドが三つしかないのだ。誰か一人が、別途以外で寝ることになる。その状況に、ビルはシルクハットを外しながら、反省の色も出さずに謝った。
「新人が間に合うかわからなかったので」
大抵、魔道士が仕事で宿に泊まるとき、現地で野宿にならないように宿を予約する。当然四院クラスともなると、その手順もなかなか面倒なものとなる。
四院に属する魔道士が滞在するとき、誰が不在なのか、届け出が必要にある。届け出には、名前、所属院のほかに、どこの町に滞在するのかを記す欄が存在する。その届け出が受理されるときに、黄央院から院指定の宿に向けて連絡を取り、予約がされる。これは万一でも滞在先の宿に空き部屋がなく、街中に野宿するはめにならない配慮だ。ちなみに個人の心配ではなく、国家公務員たる魔道士が宿無しでは示しがつかないためだったりする。
今回、ロジーナが来る前に不在届けを送ってしまっていたため、三人部屋を予約することになってしまったらしい。とはいえ普通なら、新人が来るのを待ってから不在届けを出すものだが。
「ま、最近男の子しか来なかったもので。イルかシュールと雑魚寝でもしてもらおうかと思ってたんです」
一度間違いかと思った「毎年派遣はされている」といううわさは、やはり真実のようだ。ロジーナはいまさら不安に駆られる。
先ほどのビルの発言を受けて、シュールがどうでもいい反論をする。
「なんで俺たちと雑魚寝なんだ」
「男と添い寝なんて、幽霊になってもイヤです」
「雑魚寝と添い寝は別物だろ」
ビルの逸脱した考えを、心底不快そうにシュールが訂正する。ビルの主張は、きっと多くの人が共感するだろう。そしてその多くの人に、ビルもシュールも感性が一致するところだ。
「ま、ソファで寝ていただいてもよかったんですけどね」と、遅れながらにビルが追加する。
とはいえそんな架空の話で盛り上がっても仕方がない。事実はロジーナという女の子が来てしまったのだから。




