その1
本編開始です
その日は派遣先申告日で、新米の魔道士が黄央院に集まっていた。ロジーナ・エヴァンスもまた、そのうちの一人だ。大きく深呼吸をして、荘厳な扉を開く。するとその目に、四十人近くの新人魔道士が飛びこんできた。しかしこれはかなり少ない数である。それは二万人はくだらない受験者数から、ここまで人数が減ったことを指すもので、それだけ試験が難しかったということだ。
人数が減ったことによって、逆に元の人数の多さを知り、そこからこのホールの広さに感嘆した。さすがは魔道士界の最高機関なだけある。内装は薄い黄色で、ドーム状になっているここには、入り口と奥に行く扉しかなかった。受付も見えるものの、なんだか空虚な気もする。今の時期でなければ、誰もいなくてさぞ寂しいだろう。
黄央院についた新人は、その中で派遣先を宣告されるまで、長い待機が求められる。暇つぶし道具の持参は常識といっても過言ではない。
とはいえ時間など関係なく、憧れ続けた場所にいるのは緊張するものだ。お世辞でも成績優良とはいえないため、派遣先への不安もある。来たばかりのロジーナはみっともなく、きょろきょろと周囲を見回した。
当然だが、派遣先は能力に応じて変わる。成績がそんなに良くないということは、大した魔道士院に入れないということを指す。有名どころに入る必要はないが、ある程度いいところでないと、処遇や収入に大きく差が出るのだ。しかもほとんどがその院に人生をかけることになる。新人魔道士にとって、まさに運命の分かれ道と言えよう。
うろうろする彼女に、遠くから声がかかる。
「ロジーナ、こっちよ!」
「ジェシカ!よかった」
知り合いの少女の声を聞いて、安堵とともにロジーナは手をふる彼女のほうへ移動した。子犬のように駆けてくる姿に、ジェシカはくすりと笑う。まるで迷子が母親を見つけた時のような顔をしていたからだ。それが解ってしまい、ロジーナは少し恥ずかしくなる。
「ずいぶんとギリギリね。もうGまで呼ばれたのよ」
派遣先の申告は、アルファベット順に行われる。そのため、来る時間は人それぞれなのだ。Jで始まるジェシカは、頭からいるという。ちなみにロジーナはLになる。Gとなると、なるほど確かに近かった。
ジェシカは研修中に仲良くなった、住んでいた寮の隣人だ。研修中は指定された寮生活を強いられる。ちなみに寮は男女別寮、一人一部屋という、なかなか快適な空間だった。退寮する時には、もう少しいてもいいかな、と誰しもが思うと言う話だ。