その9
ロジーナに割り当てられた部屋は、階段を上って右に曲がった通路の一番奥だった。扉の横に4と書かれたプレートがあるので、四号室なんだと解る。昔から女性が使うための部屋らしく、家具も壁紙もすべてがなんだかかわいらしい。すでに中身をつめるだけの部屋に、彼女は感動を覚えた。
「掃除はしてありますが、長い間女性がいなかったので、少し家具に不備があるかもしれません。足りないものがあったらなんでも言ってくださいね」
見かけはかなりおかしいが、人柄はかなり良いようだ。礼を聞くと、彼は階段のほうへ姿を消した。
一人になったロジーナは、置いてある家具を一つ一つ見ていった。レースのついたピンクのチェック柄カバーが印象的な足長のランプや、ビーズがあしらわれたオフホワイトの柱時計など、女の子はおろかお嬢様のような部屋に、興奮を隠せない。カーテンは布の他にビーズ製のものもついていて、差し込む光を分散し、きらきらと輝いていた。カーテンを開けると見晴らしがとてもよく、洋館でありながらこの建物よりも大きな建物がないということに気づく。
「人間以外は最高じゃないの?もしかして」
仕事内容を忘れているようだが、そう思ってもおかしくないほど住居としては優れていた。彼女的には人数が少ないゆえの静けさもまた魅力の一つだ。
ビルが言っていた通り、掃除も行き届いていて、塵の一つも見えない。
薄地のカーテンがかかった天蓋付きのベッドは寝心地もよく、どんなに勢いよく寝転がってもホコリは出てこなかった。白くもやのかかる天井を見ながら、ロジーナはなぜ魔道士たちが移院をするのかを考え始めた。
「こんなにいいところなのに、そんなに人付き合いが大変そうにも見えないし・・・」
姿こそ変ではあったが、ビルの性格は困るようなものではない。むしろ言い忘れさえ我慢してもらえれば、誰とでも打ち解けられるような人のよさがあふれ出ていた。人付き合いのほかに考えられた部屋も、なんの悪さもない。ハッとして、ロジーナは勢いよく上体を起こした。
「もしかして・・・仕事がかなり過酷とか?」
しかし説明を聞く限り、ただ混乱をさせないために先立って解決するだけで、朱夏院どころか、下手をすれば外院と同等の仕事内容といっても間違いはなさそうだった。
結局途中でいやになり、ロジーナはキャリーの中身の解体に取り掛かった。