その8
今回で説明は終わりです
先ほど書いた数字は、各院に住んでいる蒼藍の人数ということだ。ここで彼女は矛盾を感じる。認識している蒼藍の定義からずれるのだ。
「・・・蒼春院にいないのに蒼藍なんですか?」
ロジーナのもっともな質問に、彼は油性ペンのフタを閉めながら答えた。
「蒼藍を定義的に言いますと、蒼春院の依頼を受ける魔道士のことを言います。玄黎などは違いますけども」
玄黎は、玄冬院の魔道士のことである。今までの話をロジーナの疑問と繋げると、この静けさの原因は蒼藍の特殊な形態が影響しているわけだ。あと二人しかいないと解れば、なるほど納得の静けさである。
一つ疑問が解決したところで、次の疑問をぶつけてみる。
「あの・・・お名前は?」
「あれ?名乗っていませんでしたか?」
またそれかと、早くもあきれ始めた。その言葉に首肯で返すと、彼はすっと席を立って恭しく一礼した。
「それは失礼しました。私はビルと申します。ここにいる蒼藍の中でもっとも長くいるものです」
「ビル・何さんなのですか?」
「さて、部屋に案内しましょうか。ついてきてください」
解りやすいほどにバッサリと話をかわされてしまった。無視されたのか、聞こえなかったのかは解らないが、意図的にかわされた可能性を考えて、敢えて二度はやめる。
席を立とうと視線を机に向けたとき、ロジーナは目を丸くした。先ほどまで油性ペンでいろいろと書き込まれていたテーブルが、元の白さを取り戻していたのである。ぱっとビルを見るが、彼はすたすたと階段に向かって歩いていた。気付けばマーカーも消えている。彼がテーブルに手をついたのは、席を立つときの一瞬だけ。彼が何をしたのか、いくら考えても答えが出せそうに無かった。
置いていかれそうになったロジーナは、あわててビルを追いかけた。そのまま彼女が尋ねる機会を失ったのは、言うまでもない。