その7
「ここが問題発生の現場として、この点が一番近い村だとします」
どうやら先ほどの説明の補足のようなものをしてくれるようだ。重要事項と判断したロジーナは、ひとまず話を聞くことにした。熱心に話を聴いていると、唐突に眼鏡が尋ねてくる。
「この場合、ここからどのくらいかかるのか解りますか?」
少し混乱しながらも、彼女はその質問になるべく早く答えようと、頭をフル回転させた。
まず、蒼春院から朱夏院の距離。車で直接行っても、電車で行っても十日以上かかる。もちろん速さは違うのだが、夜行電車に乗っていくと、七日かけて中央へ行き、またそこから四日かけて南に移動しなければならない。そのため、遠回りになってしまうので同じような時間になってしまうのである。ちなみに東と南を直接つなぐ電車もあるのだが、夜行ではないので車と同様の時間がかかってしまうのだ。
ここで補足しておくと、内院から四院までの距離は平等ではない。国土の形により、向かい合う東西、南北は同じ距離なのだが、それら二院同士の長さは異なっているのだ。東西の距離のほうが南北よりも長いのは、言うまでもないだろう。
次に朱夏院から問題発生地付近の村までの距離。ここが意外と離れており、たぶん一日はかかってしまうだろう。村から問題発生地までは十キロ以上とはいえ、車で行けば五時間くらいでいけそうだ。
つまり。
「早くて十二日・・・ですか?」
「そうでしょうね」と、曖昧な肯定を見せる。彼は行ったことがないのだろうかと、ロジーナは違和感を覚えた。仕事は選べるはずなので、そう特異な話ではない。しかし、十五人でえり好みをする余裕があるのかという点だ。
それにこれは妙な話でもある。そんな日数がかかってしまっていたら、十キロなんて距離、大型じゃなくとも三日もたたずに着いてしまう。そうしたら村が気付いて、すぐにでも来れる外院、もしくは朱夏院に依頼するだろう。そうなったら向かった蒼藍はとんだ無駄足になる。
その疑問を素直に眼鏡にぶつけると、聡明であると感心された。照れるロジーナをよそに、今度は各四院の名前の下に4と書いていく。蒼春院の下だけ3と書かれているが。とことんマイペースな男のようだ。
「蒼春院には様々な特例が存在します。そのうちの一つがこれなのです」
先ほど書いたばかりの数字を指した。
「もともと、四院の魔道士は泊り込みで仕事をすることを許されています。蒼藍も例外ではありません」
しかし、朱夏院に泊まらせてもらう以前の問題だ。連絡が来てから動いては遅いのに、朱夏院に泊まる余裕などない。その制度が適用できるのは、帰りくらいである。それに気付いたロジーナは、首をかしげた。眼鏡の言おうとしているところがわからない。そんな彼女を見て、彼は笑った。
「しかしですね。先ほどあなたが懸念したことは確かに払拭できません。そのため、蒼藍は例外的に他四院に定住することを許されているのです。そのため現在は、他四院に四人ずつ滞在するという形態を取っているんですよ」