その6
「それからここですね」
彼は東の院をマーカーで丸く囲んだ。
「ここ蒼春院では、なんらかの原因で依頼が来ない物なんかを、政府や黄央院から依頼されます。大きな機関の両方から依頼が来るのは、ここだけなんですよ」
「何らかの原因って、どんなものですか?」
ロジーナの質問に対し、眼鏡は首をかしげた。もしかしたら原因は知らされていないのだろうかと、申し訳ない気持ちになる。しかし、彼は思い出したように手のひらをこぶしでぽんとたたいた。
「町から距離がありすぎて、町人が気付いていないときとかですね。下手な混乱を避けるために、知らせないほうがいいのですよ」
どうやら具体例があまりないらしい。大変な説明をさせたことに、彼女は少し罪悪感を抱いた。もう少し、自分で考える癖をつけなければと、大いに反省する。
説明が終わりかと思いきや、四院同士の間と、四院と黄央院の間に、太い二重の線を引いた。大きな円と、十字が描かれる形になった。
「ついでに説明しますと、この部分に外院が点在しているのですね」
説明をまじめに聞いていたロジーナは、ふと本来の質問を思い出す。
「あの・・・蒼藍の方々の話は・・・?」
「ああ、そうでしたね」
もしかして忘れていたのではという感想が、ロジーナの中に浮かんだ。が、疑うのは失礼だと考え直す。その間に眼鏡が、今度は朱夏院の下に星マークを書いた。その少し離れたところに小さな点を書く。二つの間にアルファベットの「I」のような線を引き、「10km」と記した。
蒼藍不在と繋がりがわからずに、ロジーナはきょとんとする。眼鏡はそんな様子にくすりと笑うと、星マークに書き足しながら説明を開始する。