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暖かな場所



   ◆◆◆



――ぽつん、ぽつん。


「また、あの夢……」

 青い世界に浮かぶラウイは、フェンスの姿を探そうと辺りを見回した。


――ぽつん、ぽつん。


『ごめんなさい、ごめんなさい……』

 ラウイが辺りを見回すと同時に、フェンスの声が後ろから聞こえる。ラウイはすぐに振り向くと、そこには大粒の涙を流すフェンスが居た。

 フェンスが流す涙は、彼女の頬を伝い、一面に広がる水に溶け込んでいく。

「なんで謝るの?」

『…………あなたを傷付けてしまったから』

 ラウイはその言葉を聞くと、不意に嫌な光景を思い出してしまう。――父親を殺してしまった、あの時の事を。

 ラウイは顔をしかめ、涙を流すフェンスに冷たく聞く。

「……あの力は、あなたの仕業?」

 フェンスはラウイの問いには答えず、ただ涙を流すだけだった。

「あの力は、なんなの?」

 ラウイはフェンスに近付き、睨めつけるように問いただす。

 彼女の潤んだ赤い瞳が、目付きの悪いラウイを映し出していた。

「私に何をさせたいの?! 言いなさいよ!」

 声を荒らげて叫ぶラウイは冷静さを失っていた。

 訳もわからない力が、自分の中にあるのだ。恐くて当然だろう。

『それは、この先の運命に抗うための力』

「どういうことっ?」

 フェンスの言葉を理解できないラウイは、もっとフェンスに近付こうとする。だが、一定の距離から近寄ることが出来ない。

 その刹那。フェンスの隣に黒い影が現れる。そしてその影はみるみる形や色を表していく。

「……チユ?」

 その影は、段々とチユそのものへと変わっっていった。

「チユっ!」

 夢と言うことも忘れて、ラウイはチユに呼びかける。だが、チユがそれに応えることは無かった。

 現れたチユはふわふわと宙に浮かびながら、フェンスにゆっくり重なっていく。

「どういうこと……?」

 目を疑うラウイは、両手で目を擦り、それを確認しようとする。

 だが、またまばゆい光が全てを白く塗りつぶしていった。



   ◆◆◆


 

「ラウイさんっ!」

 ゆっくりと目を開けるラウイの姿を見て、チユは歓喜の声を上げる。

「よかったですぅぅぅ。このまま目を開けてくれないんじゃないかって、心配していたんですよっ」

 ラウイの目に飛び込んできた光景は、チユが大げさにはしゃぐ所だった。

 そんな光景を見てラウイはクスリと笑うと、ゆっくりと起き上がり辺りを見回す。

「ここは、どこ?」

 特に飾り気の無い家具に、決して広くない部屋。布団に使われている生地も、それほど高価な物ではない。

 ましてや、貧困層だとしても買うことのできない物ばかりなので、ここの家の住人は『中流階級』位の身分なんだろう、と誰もが推測できた。

「ウィンティアおばさんのお家ですよ」

「ウィンティアおばさん? うーん、昨日の記憶が……」

 ラウイは右手を布団から出すと、髪の毛をくしゃりと掻き回す。

 当然、ほとんど気を失っていたラウイがウィンティアの存在を知るはずがない。

「昨日……ではなくて、一昨日おとといですよ!」

「……えっ?」

「だから心配していたんですっ! 高熱でうなされるラウイさんの汗をどれだけ拭き取ったと思っているんですか!」

 チユは腕を組むと、真顔で言った。

 そんな気もしていなかったラウイは、口をあんぐりあけたまま、信じられなさそうにしている。

 すると、チユの後ろにある扉が音を立てて開く。

「チユ、貴族っぽいのの様子はどうだー? って、起きてるじゃねぇか」

 その扉から入ってきたのは、綺麗に畳まれた布をひょいと片手で持つシデンだった。

 ラウイはシデンの顔を見ると、一昨日の事を少しだけ思い出す。

「あっ、あの時の」

「おい、チユ。これそこら辺に置いといてくれ」

 お礼を言おうと口を開けたラウイだったが、シデンはその言葉を聞こうともせずにチユに布を渡し、すぐに部屋から出ていこうとする。

 それを見たラウイは、少し焦り口を走らせた。

「あの、ちょっと……そこの赤髪のキミっ」

「ああ? 俺かよ。俺にはシデン、って名前があんだよ」

 シデンの突っかかるようなその態度を見たラウイは、顔をしかめてから喋りだす。

「じゃあシデン、助けてくれてありがとう。あなたが助けに来てくれなかったら――」

「ああ、気にすんな。俺はチユを助けに来ただけであって、お前を助けようなんて思たわけじゃねぇよ」

 シデンはラウイを見下すように睨むと、少し鼻で笑ってから素っ気なく答える。

 ラウイはその態度を見ると、我慢していた感情が表に吹き出し、まるで火山が噴火したかのように怒りだした。

「なっ……! この、ガキっ! 命の恩人だから穏便に済ませようと思ったけど、頭きたっ! せっかく私がお礼を言ってあげたのに、なによ、その態度! 無礼にも程があるんじゃないかしら?」

「貴族野郎にお礼なんて言われたかねーよ。気持ちわりぃしなぁ」

「なんですって! てゆうかね、私にもラウイって言う立派な名前があるのよっ? まったく、言葉使いが悪い庶民のガキねっ!」

 顔を赤らめて怒りだすラウイと、喧嘩腰で突っかかるシデン。そして、その二人の間に挟まれて、チユはおろおろしている。

「てめーも充分言葉使い荒いがなぁ? その良い服は盗んできたのか? 偽貴族さんよぉ」

「むっ、ムキィィッ! なんか腹立つ! チユっ腹立つゥ!」

 今まで体調を崩して寝ていたとは思えないくらいの高い声をあげて、ラウイはチユに掴みかかると左右に揺らした。

 よっぽど腹が立っていたのか、チユを掴む指に力がかかる。

「ラ、ラウイさん、落ち着いてください。肩が痛いですっ」

 だがチユの言葉は、頭に血がのぼるラウイには届いていない。

「チユに触るなよ、菌が移るだろ」

 チユの訴えも虚しく、シデンの一言で余計に悪化する。

 その言葉を聞いたラウイは、目を吊り上げながらシデンに吼えかかった。

「なぁんですってぇぇ!! どんな菌が移るって言うのよ?!」

「偽貴族菌」

「はぁ? なにその名前。造語だったらもっとセンスいい名前つけなさいよ。まぁったく、こんなガキに怒るのも馬鹿馬鹿しくなってきたわっ!」

 チユを挟んで二人は睨み合い、火花を散らす。

 そんな二人に困り果てたチユは、精一杯の大声で叫んだ。

「はわわっ! お、お二人とも……もう、やめてくださ――」

 だが、そこまで言うと直ぐに睨み合っていた二人の視線はチユに向けられる。チユは、その怖い瞳を見ると、残りの言葉を言えなくなった。

 そして、二人はチユにこう言い放つ。

「うるせぇっ!」

「チユは黙ってなさいっ!」

 とばっちりを受けてしまったチユは、しょぼんとする。そして、小声で呟いた。

「ううう。お母さん、助けてください」

 その悲痛な声が届いたのか、はたまた、子供のような喧嘩の声が外に漏れていたのか。この部屋一番の大きな窓に人影が近付いてくる。

「どうしたのっ?!」

 大きな窓が外側から開き、そこからウィンティアが顔を覗かせた。

「って、ラウイちゃん起きてるじゃない! シデン、何で知らせてくれないのよ」

 ラウイの元気そうな姿を見て喜ぶウィンティアは、シデンを睨み付ける。

 ウィンティアの言葉を聞いたシデンは、舌打ちをしてから口を開いた。

「こいつが勝手に喧嘩吹っ掛けてくんだよ。知らせれるわけねーだろ」

「はぁ? 喧嘩売ったのあんたでしょ? 馬鹿も休み休み言いなさいよ!」

「ウィンティアおばさんー、二人を止めてくださいーっ」

 チユの困り果てた顔を見たウィンティアは、重い溜め息を吐くと、軽々とした動きで窓から中へと入ってくる。

「なぁんとなく、事情は飲み込めたわぁ……」

 ウィンティアの顔は笑っているのに、目だけ笑っていない。そして、ポキポキと指を鳴らしながらシデンのいる所までゆっくりと近付いてくる。

「なんか言いたいことある?」

 シデンの胸ぐらを掴み、ウィンティアは笑いながら言った。

 その顔を見て、シデンの毛穴という毛穴から汗が溢れ出てくる。

「え、ちょ……」

「無いわね。じゃあ遠慮しないから、しっかり受け止めなさぁい?」

 ウィンティアは微笑みながら言うと、拳を強く握り締めてからシデンの腹部に一発食らわす。そして、シデンの呻き声が〈オーヤリン〉の村全体にこだました。



   ◆◆◆



 食卓に並ぶ豪華絢爛な料理を目の前に、三日間まともな食事をとってないラウイは目を輝かせる。

「ちょっと、張り切って作りすぎたかしら?」

 無邪気な子供のように、ウィンティアは笑顔で話した。

「いっ、いえ! 野菜の盛り合わせに、お肉に、パンに……っ! 凄く、凄く美味しそうですっ! 今なら全部食べられそうっ」

 生唾を抑えながら、ラウイは料理を見つめている。

「ウィンティアおばさんの料理は、お店で出せるほど美味しいんですよー。お母さんも、ウィンティアおばさんの料理は絶賛していました」

「ササランめ……、私の料理『は』絶賛だと? あいつぅ……」

 チユの言葉を不服と思ったのか、ウィンティアは顔を歪ませながら笑って見せた。そうしてから、ウィンティアははっとした表情を浮かべると、チユの顔を見てから口を開く。

「そう言えば、その話をまだしてなかったわね。ササランは元気?」

 チユは、『ササラン』という言葉を聞くと口ごもり、暗い顔をする。

 その表情を見て察したウィンティアは、「そう」と大きく溜め息を吐いてから、辛そうに笑った。

「あの馬鹿。じゃあ、家に来た手紙は……最後の言葉ってこと? ほんっと、馬鹿…………」

「手紙、ですか?」

「……ん、そうよ。一昨日、チユちゃん達を助けれたのは、ササランの手紙に書いてあった預言のおかげなの。『どうか、あの二人を守ってあげて』って」

 木製の椅子に腰掛けてから、ウィンティアは寂しそうに笑う。そして、目に涙を浮かべてから、すぐに下を向いた。その涙は食卓の上にぽたぽたと落ち、その場だけ木の色を濃くしていく。

「嫌な予感はしてたのに。なにもしてあげれなかったなぁ」

 食卓を鮮やかに彩る豪勢な料理とは裏腹に、ウィンティアとチユは暗い表情を浮かべる。その話を聞いていたラウイも、辛そうな表情をしていた。

 そんな中、この重い空気に耐えきれなかったシデンは、両手で自分の髪の毛をくしゃくしゃにする。

「あーっ! どいつもこいつも!」

 シデンは頓狂な声を発したかと思えば、次に椅子に腰掛けて食卓の上に並ぶ料理を見つめた。

「せっかくの料理が冷める! 滅多に食えない豪華な食事だってのに」

 頬を膨らますシデンの姿を見た三人は、顔を見合わせてから失笑しだす。

「ごめーん……いや、ありがとう、かな。こんなクヨクヨした姿をササランが見たら、『らしくないですよ』って、ピシャリと言われちゃうわね」

「……ですね。この場にお母さんが居たら、シデンと同じことを言っていたと思いますし」

 ウィンティアは涙を拭うと、シデンに笑いかける。

 チユも、とびっきりの笑顔でシデンを見てから、椅子にちょこんと座った。

 だが、ラウイの表情は曇ったままで、椅子に座ろうとはしない。

「ラウイちゃん、ほら、座って? あなたが無事に目を覚ましたお祝いでもあるんだから」

「そうですよっ! 美味しく食べましょ? ラウイさん!」

 笑顔で話しかける二人の姿を見て、ラウイは余計に辛そうにしていた。

「……思い出したんです。昔、お父様が優しかった頃を。お母様が生きてた頃を。三人で食卓を囲んで、楽しく食事をした頃を」

 ラウイが重い口を開き、その事を話すと、また空気ががらりと変わる。空気が変わったのを察して、ラウイはすぐに我に返ると、苦笑して見せた。

「すいません。……さあ、食事を楽しみましょうか」

「……ラウイちゃん、無理しないでね?」

「無理なんてしていませんよ。ありがとうございます。前を見ていかなきゃいけないのは、よくわかっていますから」

 ウィンティアは心配して声を掛けるが、ラウイはそう力強く答える。その言葉を聞いたウィンティアは、返事の代わりか、満面の笑顔をラウイに向けた。

 その光景を見ていたチユも、とても嬉しそうに微笑む。


 ……だが、一人だけ奇妙な行動をとる者が居た。

「……って、シデン? あんたはなにやってんの」

 ウィンティアが冷たい視線を向ける先には、ラウイが食べるはずのステーキ肉にフォークを突き立てているシデンの姿があった。

 ウィンティアにその姿を見られたシデンは、その肉を口の中に頬張り、数回噛み砕いてから胃へと送る。そして、シデンは勝ち誇ったかのようにラウイを見た。

「うぜぇことばかり言ってるから、いらねぇかと思って食ってやったぜ」

「なっ……なっ…………!!」

 ラウイはその光景を目の当たりににして、瞳を潤ませる。

「お、お肉……た、楽しみに、してたのに」

 悲しそうに呟くラウイのお腹から、回りに聞こえるくらいの腹の虫が鳴く。その音を聞いて顔を真っ赤にするラウイは、シデンを睨み付けた。

「この、この、ばかぁぁっ!!」

 ラウイが大声で叫んだ瞬間、食卓に並ぶ料理という料理が宙に浮かび上がり、まるで踊っているかのように動き出す。

 それを見たウィンティアとチユは大慌てでラウイを宥めるが、彼女は聞く耳を持たなかった。

「私、お肉……好きなのにっ…………! お腹、空いてたのにっ!  ひどいっ!!」

「わ、わぁったから!! 俺の、俺の肉……やるから!!」

 シデンが宙に浮かんでいるステーキ肉を差し出すが、ラウイの力……いや、怒りが静まる気配がない。

 チユもウィンティアも、どうすればいいか慌てているときだった。

 力を操ることが出来ないラウイの元に、シデンの差し出したステーキ肉が迫ってくる。そして、勢い付いたその肉はラウイの小さな顔を覆い隠すように張り付く。

「――ンむッ!!」

 呼吸ができずに苦しくなったラウイは、食べ物の恨みや怒りを忘れ、無我夢中でステーキ肉を取ろうともがく。

 すると、ラウイの力は弱まり、宙に浮かび上がっていた料理達は一斉に音をたてて、床や食卓の上に無造作に落ちた。

 ラウイの顔に張り付いていたステーキ肉も、彼女の顔を滑り落ちるようにして床に落ちる。そして、彼女の顔を見た他の三人は、堪えることが出来ずに失笑してしまった。

 ラウイの顔面をぎっとりとへばりつくように汚す肉汁や油。そして、不機嫌そうなラウイの表情。

 料理は殆ど床に散らばってしまって、食べられる料理は限られてしまったが、それでも四人は笑うことを絶やさずに食事をしたのだった。

ステーキ事件をどうしても書きたかったので、無理矢理突っ込んでしまいました。

本当はこんな感じのテンポが続くお話ですが、今の私が書くため、ダーク寄りのお話になってしまっています。

申し訳ございません。

ほ、本当は……そんなにダークじゃないと思っているんだからね!!(ツンデレ風)

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