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第八話「教室にてⅢ」その一

「――で、昨日メールにも書いたけどよう」


 始業式が終わった直後の小休憩、約一カ月ぶりに対面したというのに、南川は久しぶりのあいさつもなしに、いきなり僕に水を向けてきた。

 実際のところ、南川とは春休み中も毎日のようにメールのやり取りはしていたので、僕自身も久しぶりという感覚がまったくもって無かったというのが、正直なところであり実際のところであった。というか、むしろ授業が始まったおかげで日中のこいつとのコミュニケートが不可能になり、少しばかり自由になれたと思っていたくらいである。……まあ最も、怪盗『砂時計』の予告日が近づいてきたおかげで、その自由も至極頼りないものだろうけど。

 仏頂面をした南川は、僕の前の席にどっかりと座り、


「どうだ? 目途はついたか?」

「……なんの目途だっけ?」

「おい! ちゃんとメール読んだんか!」


 叫びながら、南川はべしんと僕の机を叩いてきた。


「そんなんだからお前は戦果がゼロなんだ! おまけに毎回迷子になりやがるし! この前なんか電車ん中で迷いやがって! そんなバカは初めてだ! 怪盗より、お前の頭のネジを探す方が先じゃないか!」


 ……余計な御世話だ。


「とにかくだ! ネジは俺がそこら辺の百円ショップで探しといてやるから、お前は『砂時計』探しに集中しろ! そのために必要なんだろうが! 手に入れなきゃならないんだろうが! 遠野岩とおのいわ美術館のチケットを!」


 ……ああ。そういや、そうだった。

 三学期終了間際、ニュースで取り上げられた怪盗『砂時計』の予告状。その予告日は六週間後――――すなわち、今日から数えて八日後の土曜だったわけだが、その場所が遠野岩美術館という、隣町の美術館だったのである。

 しかし、この美術館、我ら一般人には少しばかり敷居が高い。

 そもそも、チケットが一般発売されていないのである。この美術館に入ろうと思ったら、もはや〈紹介状〉と言った方が正しいような、一見さん断固お断りな入場券を手に入れなければならない。そんなんで美術館の営業が成り立つのかという疑問が浮かぶが、この美術館は、いわゆる金持ちの道楽――――あるいは、所有物自慢のために運営されているようなものなのである。

 遠野岩家という資産家の当主が、自分のコレクションを洋館に並べ、展示しているのだ。

 この資産家、中東の辺りに相当な資産を所持しているという話で、洋館一つくらいならどうにでも運営できるほどなのだそうだ。なもんだから、この美術館に施されたセキュリティもそこら辺の公共美術館と変わらないか、あるいはそれ以上。そして展示物も一流。怪盗『砂時計』の標的たる資格を確実に備えた場所ではあるのである。

 一般人がここのチケットを手に入れようとすれば、数万円はかかるとさえ言われている。

 方法も完全に限られている。それなりのコネをもって誰かしらに譲ってもらうか、あるいはネットオークションで競り落とすくらいだ。……しかし、この美術館が怪盗『砂時計』の標的にされたこと、そしてさらにオーナーが『犯行予告日も通常運営する』と公言したことによって、そのチケットの値段はさらに高沸しているのである(まあ、そんなことができるのも、この美術館が完全なる個人私有のものだからなのだろう。あるいは、オーナーとしては、耳目を集めることでのアピール効果も目しているのかもしれないが……。警察からしたら、ハタ迷惑極まりない発言だったろうに)。

 そんなチケットを手に入れるなんて、大人だって難しいのに、未成年には不可能に近いミッションだ。いい加減、今回ばかりはこいつも諦めるんじゃないかと僕は期待していたのだが――――残念ながら、そんな希望的観測は見事に外れた。


「俺も春休み中使って親戚中を当たってみたが、やっぱり見つからなかった。あとはやっぱ、オークションでも探してみるしかないな。つっても、今じゃもう百万円以上のねがついちまってるし。う~ん……。お前はどうだった?」


 あごで僕を指しながら尋ねてくる南川。

 そもそも、その要件自体を忘れてたんだから、そんなもんを探してるわけもないだろうに。こいつはわかってて聞いてるのだろうか? ……まあ、忘れてなかったとしても、探していたかどうか怪しいけど。

 僕は肩をすくめながら、


「いやまあ、僕も方々手を尽くしてみたんだけど、やっぱり駄目だった。十親等先の親戚にまで聞きまわってみたんだけどね。いやあ、本当難しい。悔しいことこの上ない」

「……怪しいな」


 南川はじとりと僕を睨んできた。


「お前、本当だろうな? 本当に探したんだろうな?」

「ほ、本当だとも!」


 言いながら、僕はどしんと胸を叩く――――そして、その反動でげほげほと咳き込んだ。

 南川は何だか意味ありげな笑顔を僕に向けてきて、


「そうか。ふふん。……ようし、じゃあ、このクラスの全員に聞いてみろ」

「…………え、な、何を?」

「チケットを持ってるかどうかだよ」

「く、クラス全員ッ?」


 ――いや、ちょっと待ってくれ!

 僕は思わず机の上に前屈みになり、


「い、いやちょっと、それはハードルが高いんじゃ――」

「ふん、そうかあ? だって、お前、十親等の親戚にまで聞きまわったんだろ? それに比べたら、断然楽じゃないか。全員ここから見える範囲にいるんだから。そばに行って話しかけるだけだ。電話代すら無駄にならない。簡単で簡単だろう? できないとは言わせねえ」

「ったって、そ、それは――」

「じゃあ、頼んだぞ」


 そう言って、南川は僕の反論を無視するように聞き流し、自分の席へと帰ってしまった。

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