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純文学または幻想小説

街の灯り

作者: 網笠せい
掲載日:2026/03/11

 朝から漁に出ていた船が戻ると、漁港はあっという間に活気に満ちる。水揚げしたばかりの魚たちは網の中でも尾をくねらせて、ぴちぴちと飛沫をあげた。


「おおい、こっちにもコンテナ!」

「はい!」


 魚を入れるコンテナをいくつも引きずって行くと、網からどんどんと魚が放り込まれた。

 積み上がったコンテナをフォークリフトで作業場に運んで、魚の種類を分ける。長靴とエプロンをした人々が、手慣れた様子で魚を選別している。

 作業場の奥からは、かまぼこを蒸す湯気が漂ってくる。漁港で働きはじめたばかりの人は、魚や湯気のにおいに一瞬ひるむが、一ヶ月もすれば大抵は慣れる。

 少し離れたコンクリートの上で、猫たちがごろりと転がって待っている。規格外の魚にありつけるのを狙っている。

 休憩がてら、指の先ほどの小アジをやって猫の頭をなでる。普段は触られたくないと猫パンチをお見舞いしてくる猫たちだが、魚をもらうときばかりはおとなしい。

 作業場に戻って、魚の鱗と内臓、頭をとる。大きな音をたてて回る機械にさばいた魚を放り込むと、だんだんと魚のすり身ができていく。できあがったすり身を運び、次の魚が入った容器を機械にセットしようとしたところで止められた。


「ちょっとだけ待って。音で聞こえなくなっちゃうから」

「あ、はい」


 黙々と魚をさばいていると、大きなサイレンが鳴った。

 作業中の人々が手を止めて、そっと目を伏せる。いつもは騒がしい作業所が、誰かが鼻をすする音が聞こえるほど、静まり返っている。

 少しして、衛生帽とゴムエプロンと長靴をした社長が、両手をぽんと叩いた。


「はい。作業をつづけて」


 魚のすり身を作る機械が動き出して、作業場はあっという間に騒がしくなった。

 板に魚のすり身を盛って、隣の部屋に運び込む。すでに蒸しあがったかまぼこのいい匂いがする。四六時中かいでいると自分自身では匂いがわからなくなってしまうけれど、道端で猫が寄ってくるから、きっといい匂いなのだろう。

 作業を終えてタイムカードを押したときには、すっかり日が暮れていた。三月になって少し日が長くなってきたものの、薄暗い。

 街灯がぽつぽつと灯る道を歩きながら、山の斜面に連なる街を見上げる。家々に灯る明かりが不意ににじんだ。


 ──今日の晩ご飯は何にしよう。


 長靴で蒸れた足を靴のなかでモゾモゾさせながら、家路についた。


<おわり>

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― 新着の感想 ―
拝読して改めて思うのは、私の作品とは対極にあるということ。 私は削ぎ落として読者に場面や風景を自由に想像してもらう。 編笠様は細やかな描写を積極的に取り入れ、読者を世界観に引き込む。 どちらが優れて…
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