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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【織田家激震、義弟長政裏切り編】

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第77話 長谷川真昼、お市ちゃんの狂気に気づかない

 難攻不落と謳われた越前朝倉家の要害金ヶ崎城は、あっけない幕切れを迎えていた。


 家康軍が到着すると門が開かれ、城主の朝倉景恒が土下座態勢で降伏を宣言したのだ。


「織田の天兵、我らに勝ち目なし。さらに本国から見捨てられた我らに、どうか慈悲を」

 

「なんと味気ない。まあ、承知した。お主、きちんと儂が戦神の如き活躍したと、旭殿の耳に入るように喧伝するんじゃぞ?」


「旭?」


『気にするでない。それより、もうすぐ織田本軍が到着する。出迎えの準備をするのじゃ』


 ノムサンに言われ、城主の朝倉景恒は降伏兵たちと宴の準備を開始した。


「むむむ、これでは先鋒を受け持った意味がない。次も先鋒をお願いせねば!」


『好きにせい。信長も許可するじゃろ』


 家康とノムサンが金ヶ崎城の慰撫をしつつ、信長本隊の到着を待つ。

 すぐに次鋒の明智光秀隊が到着した。


「予定より順調ですね。これなら一乗谷陥落も時間の問題でしょう」


 金ヶ崎に入城した光秀さんが満足げに頷き、それから柴田勝家部隊、池田勝正部隊、それに信長様本隊と続々と到着する。

 

「朝倉恐るるに足らず」

「朝倉家一門衆の景恒ですら織田家に寝返った」

「天命は我らにあり!」

 

 織田軍全体に、楽観ムードが蔓延していく。


「皆様、油断召されぬように。慢心は驕慢になります。軍規を正し、金ヶ崎の人々に指一本触れぬように」


「半兵衛の言う通りだ。軍規を破った者は、これだからな」


 首を自らの手刀で斬る仕草をする信長様。


「あの~、信長様。なんか金ヶ崎の住人たちが、私を本物の八百比丘尼様じゃ、って拝んできてるんですが?」


「……許す! 存分に拝め! 一晩中拝んでいて構わん!」


「なんで許すの⁉ 八百比丘尼って何? ていうか一晩中って、私の睡眠時間は⁉」


 信長様も私も、どこか浮かれていた。

 そんな織田軍で、順調すぎるといつもより神経を尖らせていたのは2人だけ。

 半兵衛君と、久秀さんだけだった。


 ***


 北近江の小谷城の重苦しい空気が漂う奥の間で、浅井長政は苦悩していた。

 目の前には隠居した父・久政と、長政の手元で妖しく光る英霊ボール『フミオ』。


「長政よ。信長は若狭武田家の救援という名目を破り、独断で越前へ侵攻した。これは明白な約束違反、将軍義昭様を欺く行為じゃ」


 久政が地図を広げ、熱っぽく語りかける。


「今、信長は金ヶ崎を越え、敦賀の狭い一本道を進んでおる。ここで浅井が背後を塞げば、織田軍は完全に袋の鼠。天下無双の織田軍団も、前後を塞がれれば補給も退路もなくなり壊滅する。……信長を討ち、お前が幕府再興の立役者となるのじゃ」


「しかし、信長殿は我が義兄。お市殿の兄上を裏切るなど……!」


 長政が反論しようとすると、久政はフミオを指さす。


「吉家殿がくれたこの英霊、生涯を物干し竿と呼ばれる長槍に捧げたそうじゃ。それは何のためじゃ? 天下を獲るためじゃろ! この機を逃して何とする! 幕府を再興したいのじゃろ!」


 久政の言葉に長政は、お市と過ごした日々、脛毛を剃った平和な時間を脳裏に浮かべる。

 それを当主としての重圧と、父の理屈が押し潰す。


 長政は、ゆっくりと愛用の長槍を握りしめた。


「……わかりました。父上、それがしの負けです」


 長政の目から迷いが消え、悲壮な決意の光が宿る。


「信長殿の背中……この長政が、全力をもって挟殺いたします」


 決断を下した長政は、広間に家臣たちを集めた。

 海北善右衛門、赤尾孫三郎、雨森弥兵衛の海赤雨三将をはじめとする重臣たちが、主君の言葉を待っている。


「皆の者、聞け。……浅井長政は、これより信長の背後を襲う卑怯者となる」


 長政の声が広間に響く。


「織田家と仲のいい者も多いだろう。それがしを許せぬ者は、今すぐ去っても構わぬ。怨むつもりはない」


 静寂が流れた。

 その間、誰一人として動こうとはしない。

 やがて海北が進み出て、深く頭を下げた。


「長政様、水くさいことを仰いますな。我らが忠義は、浅井長政様にあり!」


「左様! 地獄の底までお供仕る!」

 

「織田信長だろうが長谷川真昼だろうが、我らの結束で粉砕してくれよう!」


 家臣たちの悲壮な決意に、長政の目頭が熱くなる。

 そこへ雨森が厳しい顔で続けた。


「長政様、これは盛者必衰の分かれ目。信長を仕留め損なえば、窮地に陥るは我ら浅井家。……長政様、ご覚悟を決められよ」


「覚悟?」


「お市様とのことでございます。織田を討つとなれば、もはや縁は切れました。……お市様と離縁し、織田にお返しくだされ」


 家臣たちが、頭に巻いている『お市様命』『お市様しか勝たん』『愛=お市様』の文字が入った鉢巻を涙を流しながら外していく。

 そんな家臣たちからの非情な要求に、長政は唇を噛み締め、断腸の思いで頷く直前。


「誰と誰が離縁ですって?」


 凛とした声と共に、襖がさっと開かれた。

 そこに立っていたのは、赤子の茶々を抱いたお市。


「お、お市殿……」


 狼狽する長政へ、お市は歩み寄った。


「聞いたか、お市殿……。聞いた通りだ。それがしは義兄信長を裏切る。ゆえに、それがしと離縁を……」


「何をおっしゃいますか長政様」


 お市はキョトンとした顔をした後、背筋が凍るような笑みを浮かべた。


「……お市殿?」


「これは兄、信長を討ち、私が織田家当主となる千載一遇の好機ではありませぬか」


「は?」


 長政と家臣団が固まる。

 お市は茶々をあやしながら、恍惚とした表情で続けた。


「お兄様がいなくなれば、織田家は混乱します。そこへ私が乗り込み、実権を握る。そうすれば……」


 お市の目がギラリと光った。


「真昼を私の妻にするのです! 合法的に! 誰にも邪魔されず!」


「「「「⁉」」」」

 

 長政、家臣団、全員の思考が停止した。

 妻? 誰を? 真昼を? 誰が?


「フッフッフ、アッハッハッハ! いい気味ですわお兄様! 真昼を独り占めにして、私にくれなかった罰ですの! お兄様を討ち取れば、真昼は悲しむ……そこを私が優しく慰め、籠絡し、一生私の側から離れられないようにしてあげるわ!」


 お市の高笑いが広間に響き渡る。


「……えっと、お市殿。真昼を妻にするということは、それがしと離縁するということで?」


 長政が恐る恐る尋ねるが、お市は「何言ってるのこの人」という顔で即答した。


「何をおっしゃいますか、長政様。あなたは私の夫ではありませぬか」


「へ?」


「私が真昼を愛でる間、しっかりと働き、私たちを守るのが夫の役目でしょう? さあ、行きなさい長政様! 邪魔な信長お兄様を排除し、私たちの理想郷を作るのです!」


 長政は絶句した後、なぜか妙に納得したように大きく頷いた。


「……そうか。それがしの愛は、お市殿の愛を守るための盾となることか……! わかった! やろうぞお市殿!」


「我が兄信長は、逆らった私のもう1人の兄信勝を弑し、産みの母ですら寺に押し込めました。その報いを受ける時が来たのです。……フフ、勘違いしないでください。信勝も母も兄信長に敗北しただけ。恨みなんてありません」


 お市の言葉に、ゴクリと唾を飲む浅井家面々。


「生まれたからには天下を目指す! それが織田家の家訓! 信治兄様や信興兄様は従順ですが私は違う! お兄様が油断した好機! 私は見逃す気は一切ありません!」


 シンとした空気が徐々に熱気に変わる。


「おおおお! さすがはお市様!」

「信長を倒し、真昼様を奪い取る! これぞ大義!」

「お市様万歳! 浅井家万歳!」

「我らは裏切り者にあらず! 織田軍当主は織田市様なり!」

「やっぱり、お市様しか勝たん!」


 広間は熱狂の渦に包まれた。

 全員が、お市ちゃん親衛隊として鉢巻を巻き直していく。

 長政は槍を掲げ、高らかに出陣の号令をかける。


「全軍、出陣! 目指すは金ヶ崎の背後! 織田信長を討ち、お市殿の野望を叶えるのだ!」


 こうして浅井軍は動き出す。

 雨粒がぽつりぽつりと落ち、やがて大粒の雨となり、雷鳴が響く。

 そんな小谷の城内で、高笑いするお市と、キャッキャと笑う茶々、その姿を見て腰を抜かしている久政を残しながら。

 

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