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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【海賊王に私はなる? 伊勢攻略編】

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第67話 長谷川真昼、33―4で勝つ

「撃てぇぇぇ! 織田の洗濯桶どもを、一艘残らず沈めてしまえ!」


 小浜景隆の号令と共に、巨大安宅船の側面から一斉に火縄銃が火を噴いた。

 海面にバババババッ! と無数の水柱が上がり、鉄の玉が私たちの乗る小舟を容赦なく掠めていく。


「ひいいい! 怖い怖い怖い! 嘉隆さん、やっぱり無理だよこれ! バッティングセンターの160キロケージに、防具なしの全裸で放り込まれた気分だよ!」


 私は舟の底に這いつくばって絶叫する。

 木造の薄い板一枚隔てた向こうは冷たい死の世界。当たれば即、戦国時代の不運な事故死として歴史の闇に消える確定演出だ。


「ガハハ! ビビるな姉ちゃん、これも計算通りだぜ! ……なあ、半兵衛の旦那!」


 嘉隆さんは荒れ狂う波の中で舵を握りながら、涼しい顔で後ろの舟に声をかけた。

 そこに半兵衛君が、モリミチボールを高く掲げて不敵に微笑んでいる。


「ええ。敵の攻撃パターンは読み切りました。……モリモチさん、海上守備シフト、発動です」


『任せろ。……全速前進! 6―4―3のダブルプレーの要領で、敵の射線を外すぞ!』


 モリミチボールが白く発光すると、今までバラバラに浮いていた九鬼水軍の小舟たちが、磁石に吸い寄せられるように一糸乱れぬ動きを始めた。

 ある舟は急旋回して敵の死角へ、ある舟は波の谷間に計算ずくで隠れて銃撃をやり過ごす。


「なっ……⁉ なぜ当たらぬ! あの小舟ども、まるで生きているかのように動くぞ!」


 巨船の上で向井正重が狼狽する。

 おじいちゃんたちの操縦によって変幻自在の動きをする小早船が、巨大な安宅船を翻弄していく。

 そこへ、嘉隆さんの懐からボビーボールが飛び出した。


『ヘイ! 嘉隆! 巨大な組織は変化に弱い! ミーのボビー・マジックを見せてやろう! 1番から9番まで、全員主役で、全員ヒーローインタビューだ!』


 ボビーが叫ぶと、小舟に乗った漁師のおじいちゃんたちが、一斉に何かを構えた。

 ……バットだ。それも信長様が作った、特注の金属バット。


「野郎ども、用意はいいか! 飛んできた弾丸は、全部打ち返して安宅船に叩き込んでやれ!」


「「「ヘイッ!」」」


 ……は? 嘉隆さん、今なんて?


「ちょ、無理だよ! 鉄砲の弾をバットで打ち返すなんて、物理法則がボイコットして帰ってこないレベルの無茶だよ!」


 私がツッコむ間もなく、第二波の銃撃が飛んでくる。

 

『小娘! バットを構えろ! マサオさんの規律と、儂の闘魂があれば、弾丸などただの甘いど真ん中のストレートじゃ!』


 センイチが私の手で燃え上がる。


『儂の闘将!』

『儂の鉄壁!』

『ミーのマジック!』


『『『受け取れええええ!』』』

 

 英霊ボールどもが叫ぶと、私の視界がスローモーションになった。

 飛んでくる無数の鉛玉の一つひとつの軌道が、くっきりと止まって見える。


「……あ、これ、お姉ちゃんが機嫌の悪い時に投げてきた鼻をかんだティッシュよりずっと遅い」


 私は反射的に立ち上がり、バットを一閃させた。


 ――カキーン! カキーン! カキーン!


「えっ」


 打ち返した弾丸が、そのまま安宅船の櫓に直撃し、火花を散らす。

 周りの九鬼水軍の猛者たちも、ボビーの魔術によって異常な動体視力を得たのか、カカカッ! と見事なバッティングで弾丸を跳ね返していく。


「バ、バカな……! 鉄砲の玉を棒切れで打ち返すだと⁉ 織田の軍勢は、海の上で神事でも行っているのか⁉」


 小浜景隆の悲鳴が海に響く。


「ええい! 志摩の海賊どもは何をしている! 伊藤兵部、甲賀雅楽介らはなぜ戦場に現れん!」


 彼の疑問に答えたのは半兵衛君だ。


「フフフ、その者らなら、今頃知多水軍の佐治為興殿によって破られているかと」


「な、なんだと⁉」


「この戦場に現れないのが、何よりの証拠ですよ」


 佐治為興って……お犬ちゃんが結婚した人⁉ お相手って嘉隆さんと違う、ガチモンの海賊だったってこと⁉


「姉ちゃん、なんか失礼なこと考えてないか?」


 嘉隆さん、勘のいいことで。


「いやいや……やっぱ織田家ってえげつないなあって」

 

 私が織田家親族会議を思い出していると、鶴千代君が冷静に手帳を閉じた。


「安宅船の重心が左に寄りました。……今です、嘉隆殿。あそこの波のうねりを利用すれば、一気に本塁へ突っ込めます。僕の計算に狂いはありません」


「よっしゃ! 全員、突撃だぁぁ! 33対4の悪夢を、北畠に見せてやれぇぇ!」


「嘉隆さん、それセンイチのトラウマだからやめてあげて!」


 九鬼水軍の小舟たちが、一斉に安宅船の懐へと滑り込む。

 巨大すぎて至近距離が死角になっている安宅船は、もはや巨大なだけのマトだ。


「ふざけんな! こうなりゃ肉弾戦だ! 船員の数はこっちが上! 全員斬り殺してくれるわ!」


 北畠兵が破れかぶれの攻撃に転じて、漁師のおじいちゃんたちが怯む……も。


 ――ドゴォォォォン!


 安宅船の船底が内側から爆発したかのように跳ね上がった。


「なんだ⁉ 何が起こった⁉」


 小浜景隆の絶叫とともに安宅船は浸水し、大きく傾く巨船の影から、ずぶ濡れの男たちが次々と飛び出してきた。


「ヒャッハー! 海の野郎ども、川の恐ろしさを教えてやるぜ!」

「小六、右側の舵は壊したぞ! あとは好きにしろ!」


「ええっ⁉ 小六さんに小右衛門さん⁉ なんでここにいるの⁉」


 驚愕する私に、半兵衛君が扇子で口元を隠しながら、相変わらずの涼しい顔でツッコんできた。


「真昼殿。これは絶対に負けられない戦いだと、最初から言ったはずですよ? 海を封じなければ陸の勝利はない。ならば、あらゆる伏兵を忍ばせておくのは軍師として当然の配球です」


「……この人、やっぱり性格悪い! 完璧に嵌めてるよ!」


 安宅船の甲板に這い上がった蜂須賀小六さんと九鬼嘉隆さんの視線がぶつかる。

 険悪な雰囲気になるかと思いきや――


「ガハハ! 面白い術を使いやがるな、川の泥棒野郎! 船底を抜くとはいい根性だ!」


「ヘッ、潮臭え海賊さんに手柄を独り占めさせるわけにはいかねえからな! 嘉隆、残りの雑魚は共同作業で片付けるか!」


「おうよ! 気が合うじゃねえか!」


 海と川の荒くれ者たちが、バットを片手にガッチリと握手を交わした。

 ……あ、この人たち、脳筋同士で意気投合しちゃったよ。


 まあいいや。


「エイッ!」

 

 私は嘉隆さんの舟から、安宅船の甲板へと一気にジャンプ。


「着地! 10点満点! ……さあ、小浜景隆さん、向井正重さん、ゲームセットのお時間ですよ!」


 私はバットを構え、震える敵将2人に向かってにっこりと笑った。


「ちっ……」

「クソが……」


 ドボン!


「ちょっ! 嘘でしょ? 海に自分から飛び込んで行っちゃったよ」


「待ちやがれ! 俺ら九鬼の恨みはこんなもんじゃねえぞ!」


「嘉隆殿、無理して追う必要はありません。さすが北畠水軍を束ねる将……水練技術が高いですね」


 半兵衛君が、パチリと扇子を閉じた。 

 海上戦は九鬼水軍と川並衆、及び佐治水軍の連合軍による、圧倒的な勝利で幕を閉じた。

 北畠の誇る巨大艦隊は、今や海面に漂うただの木材の山だ。

 

 ……勝った。これで伊勢の海は私たちのものだ。

 そう思って勝利の余韻に浸りながら、祝勝会でアジの開きを齧っていると……。


 ポツ……。


 私の鼻先に、冷たいものが当たった。

 見上げると、さっきまで晴れていたはずの空が、いつの間にか見たこともないような不気味な黒雲に覆い尽くされている。


「……雨?」


 それは、しっとりとした情緒のある雨ではなかった。

 天から降り注ぐ、重く、粘りつくような、冷たい拒絶の雨。

 みるみるうちに視界は白く霞み、勝利の熱狂が急速に冷えていく。


「……まずい兆候ですね」


 半兵衛君の、いつもの余裕が消えていた。

 天を見上げる彼の顔は、影に沈み、かつてないほど暗い。


「この雨……ただの天候不順ではありませんね。当分止むことはないでしょう。火縄銃が機能不全に陥りましたか」


「当分止まない雨……? あはは、太陽はそのうち出てくるって。心配性だなあ、半兵衛君は」


「……だと、いいのですが」


 半兵衛君の瞳に宿る暗い光に、私は背筋が凍るのを感じた。

 海上戦の勝利を祝う声が、激しくなる雨音にかき消されていく。


 伊勢平定戦の本当の地獄が、この不吉な雨と共に始まる。

 

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