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なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【最強の敵、半兵衛君を説得せよ、美濃攻略編】

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第46話 長谷川真昼、狼と羊のダンスを踊る

 墨俣一夜城、別名バットパレスの完成により、織田軍は稲葉山城への足がかりを得た。

 だが、本丸・稲葉山城は依然として堅固だ。

 龍興は側近長井道利の入れ知恵で徹底的な持久戦を展開し、城門を固く閉ざしている。


「チッ、またあの鉄壁か。中から崩す手はずは整っているが、きっかけが掴めん」


 墨俣城の広間で、信長様が苛立ちを隠さずに吐き捨てる。

 西美濃三人衆の調略は済んでいるけど、肝心要の稲葉山城が手に入らなければ美濃攻略は終わらない。


 重苦しい空気の中、秀吉さんが静かに手を挙げた。


「……私にお任せください。あの御仁の知恵を借りてまいります」


「あの御仁? 誰?」


 私が尋ねると、秀吉さんは決意に満ちた目で答えた。


「竹中半兵衛殿です。彼ならば、この膠着状態を打破する策を持っているはず」


「でも、半兵衛君は断固拒否して隠居しちゃったじゃん? どこに居るかもわかってないって」


「半兵衛殿がいる場所は秀長が調べてくれました。今の信長様にはどうしても彼が必要なのです。……真昼殿、センイチ殿、同行願えますか?」


 秀吉さんの真剣な眼差しに、私は思わず頷いた。

 こうして私たちは、半兵衛君が隠棲する栗原山へと向かった。


 山深い栗原山の中腹に、質素な庵があった。

 半兵衛君は縁側で、モリミチボールを横に置いて静かに茶を啜っていた。

 まるで俗世の争いなど我関せずといった風情だ。


「……また来ましたか。帰蝶様」


 半兵衛君は私たちを見ても驚かなかった。


「半兵衛殿! どうかお知恵をお貸しください! 信長様が天下を統一するためには、貴方の頭脳が必要なのです!」


 秀吉さんがいきなり土下座する。

 地面に額を擦り付ける勢いだ。


「……僕は一度断った身ですよ。それに、信長殿が本当に僕の求める監督かどうか、まだ確信が持てません」


 半兵衛君は冷ややかに答える。

 でも、手元のモリミチボールが明滅した。


『……木下藤吉郎秀吉よ、必死じゃな。まるで現役時代の儂らのようじゃ。勝利のために泥にまみれる……嫌いじゃないぞ』


 センイチも私の懐から飛び出して加勢する。


『半兵衛よ、お主も野球人ならわかるはずじゃ。最高のプレーヤーが揃っていても、指揮官が無能なら勝てん。逆に荒削りでも熱い指揮官がいれば、チームは化ける。信長はそういう男じゃ!』


 それでも半兵衛君は沈黙を守る。

 秀吉さんは顔を上げ、涙ながらに訴えた。


「あの方は不器用ですが、誰よりも勝利に貪欲で、誰よりも仲間を想う方です! 亡き吉乃様のため、美濃の民のため、鬼になると誓ったあの方を、私は支えたい! そのために、貴方の力が必要なのです!」


 秀吉さんの言葉に、半兵衛君の目が揺れる。

 しばらくの沈黙の後、彼は小さくため息をつき、口を開いた。


「……わかりました。では、試してみましょう」


「試す……?」


「ええ。策を授けます。『狼羊混入の計』。……ですが、僕は現場には行きません。貴方が聞いたこの策を、又聞きだけで信長殿がどこまで理解し、再現できるか。それを第一関門としましょう」


 半兵衛君は茶を飲み干し、ニヤリと笑った。


「監督の采配能力を見るには、コーチの進言をどう活かすかが一番ですからね」


 ***


 私たちは急いで墨俣城へ戻り、信長様に報告した。

 秀吉さんが半兵衛君から聞いた策の詳細――敗走演技による誘い出し、変装部隊の潜入、そして裏ルートからの急襲――を伝える。


 信長様は黙って聞き終えると、口元を歪めた。


「……なるほどな。俺を試そうってか。面白い、上等だ! 120点で回答してやるよ!」


 信長様は即座に立ち上がり、矢継ぎ早に指示を飛ばした。


「全軍、明朝撤退する! 荷物は捨てていけ! 派手に逃げるぞ! 秀吉、秀長、新五郎、又左! お前らは斎藤兵の具足を着込み、良通、守就、直元と傷病兵を装って城門へ向かえ! 俺と真昼、川並衆は裏山へ回る!」


 迷いのない采配。的確な指示を送る信長様の姿に、私は武者震いした。


「信長様、やる気満々だね!」


 こうして織田軍は稲葉山城を包囲し、持久戦の構えを解き、撤退行動をスタートさせる。


「なんと! 食料が尽きたじゃと! い、いかん尾張に帰るぞ!」

「連戦続きで兵の疲労が甚だしいわ……信長様に休みを頂かなくては」


 最も危険な任務である陽動部隊を、権六さんや可成さんたちが引き受け、迫真の演技で叫ぶ。

 それを見た稲葉山城の龍興は、城壁から身を乗り出して大喜びだ。


「見ろ! 織田が逃げていくぞ! 勝った! 儂の勝ちじゃ! 追え! 追撃して皆殺しにせよ!」


「お待ちくだされ、龍興様! 柴田勝家も森可成も百戦錬磨の猛将。策なく追撃するは危険ですぞ!」


「何を抜かすか道利! 行け行け! 兵は神速を尊ぶと言うじゃろ!」


 重臣たちの制止も聞かず、斎藤軍の主力部隊が城門を開いて飛び出していく。

 羊の皮を被った狼の罠とも知らずに。


 城門付近で出撃する美濃兵の後方へ、ボロボロの斎藤兵の鎧を着た秀吉さんたちが現れた。


「西美濃が落ちた……三人衆様が……」

「負傷兵だ! 通してくれ!」

「水……水をくれ……」


 迫真の演技だ。

 西美濃三人衆も負傷兵の真似をして潜り込む。

 狼たちが、羊の群れの中に紛れ込んだ瞬間だ。


 その頃、私たちは半兵衛君が教えてくれた裏の獣道を進んでいた。

 道というか、ただの断崖絶壁だ。


「ここを登るのか。半兵衛め、性格が悪いな」


 信長様はそう言いながらも、楽しそうに岩肌に手をかける。

 私も金属バットをピッケル代わりに岩の隙間に突き立てた。


「ファイトー! イッパーツ!」


 私たちは猿のように崖をよじ登り、誰もいない本丸背後へと到達した。


 ***


 城外に出た斎藤軍主力が、織田軍の逃げ足が速すぎることに違和感を覚え始めた頃。

 稲葉山城内でドラが鳴り響いた。


「閉門! 織田の旗を上げろ!」


 安藤守就の号令と共に城門が閉ざされ、城内に潜入していた秀吉さんたちが一斉に蜂起した。

 出撃した美濃兵は敗走のフリから反転した権六さん率いる織田主力軍と、秀吉さんたち潜入組による挟撃により、勝ち目なしと悟り無条件降伏した。

 本丸御殿には、勝利の宴を開こうとしていた龍興の前に襖を蹴破って信長様と私が乱入する。


「よう、会いたかったぜ? 斎藤龍興よ」


「な、なぜ……⁉ 貴様らは逃げたはず……!」


 龍興は酒杯を取り落とし、腰を抜かした。


「残念! 全員野球の時間だよ! 退場処分のお時間です!」


 私がバットを突きつけると、龍興は「ひいいっ!」と悲鳴を上げて、隠し通路へと逃げ込んだ。


「ボールはなしか。ちぇっ」


「河野島で俺を仕留められなかったからか、あっさりと龍興を見限ったようだな。さあて、あの英霊ボールどもの真の使い手は誰だったのかねえ」


 信長様が、西を見つめて呟いた。


『信長よ、龍興は追わんのか?』


 センイチが疑問を口にする。


「一応親戚だしな。次はねえが、降伏するなら千本ノック一万の計で許してやるよ」


「それ、許す気無いってことじゃん!」


 そんな私のツッコみが響く中での稲葉山城陥落。

 こうしてついに、美濃は平定されたのだ。

 

 この時は私も信長様も、伊勢に逃れた龍興が英霊ボールを拾い、人が変わったみたいに知略と武勇を示してくるなんて想像できなかった。


 ***


「くそう……くそう。どうして儂がこんな目に……。どうして美濃を攻めるんじゃ……。どうして裏切るんじゃ……。どうして儂は……儂はなんて惨めなんじゃ……」

 

 逃亡し、伊勢の闇世の中で号泣する龍興。

 そこに青色に輝く英霊ボールが姿を現す。


『ぜっこうちょ、ぜっこうちょ、ぜっこうちょ?』


「ひえ……! 喋る球体がここにも……」


 恐怖で足が竦む。

 逃げ出したい。でも、不思議と勇気が出てくる声だった。


『ぜっこうちょおおおおおおおお! 泣いてないで変わらんかああああああい! 悔やむより動かんかああああい!』


 励ましてくれてるのか? 球体が? この敗者に?


「そうじゃ……変わりたい……変わりたいぞおおおおお!」


 叫んだら勇気が漲ってくる。

 これだ。今まで儂に足りなかったのはこの気合だ。


『ぜっこうちょおおおおおおおお! 熱いハートにスピードを乗せんかあああああああい!』


「そうじゃああああああ! 儂は絶好調じゃああああああ! 信長ぶっ殺してやるうううう! 美濃を返せええええええええ!」


 何が美濃一国譲り状じゃ! ただの侵略じゃねえか! 信長が攻めてこなければ、争いは起きなかったんだ!


『急上昇、熱いハート、とけるほど殺したい気持ち、受け取ったぞおおおおおお! ベイスターズのDNA受け取れえええええええ!』

 

 斎藤龍興、腐っても道三の孫で、義龍の息子。

 全てを失ったことで、彼は生まれ変わった。


 ***


 遠く栗原山から、炎上するでもなく、静かに旗印が変わった稲葉山城を見つめる竹中半兵衛。


「……完璧ですね。僕の想定以上の速度で落としてみせた」


 半兵衛は感心したように呟いた。

 モリミチボールも明滅する。


『ふっ、次は戦場で会うことになりそうじゃな。監督の手腕、見せてもらおうか』


「まだ第一関門突破です。まだ第二第三の関門を残してますよ」


『まったく、半兵衛のような頑固者、昭和野球を思い出すわい』


 半兵衛は庵でそっとお茶を啜った。

 

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