表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件  作者: ハムえっぐ
【美濃も三河も強敵だらけ、元康救出編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/82

第28話 長谷川真昼、忍者に疑問を抱く

 三河東条城。

 三河湾を一望できる高台にあるこの城は今、不気味な静寂に包まれている。

 月明かりだけが差し込む天守閣の最上階。

 欄干に腰掛け、夜風に吹かれている一つのボールがあった。

 ヒロミツだ。

 義龍の死後、主を持たずに旅を続ける孤高のボール。


『ヒロミツか。勝負よ、と言いたいが、お主、今は主なしか。わざわざ会いに来るとは相変わらず律儀な男よ』


 ヒロミツの背後、床の間の掛け軸の前に鎮座している白いボールが声をかけた。

 朝比奈泰朝が新たに手に入れた英霊ボール、スギウラだ。

 冷静で品格のある、透き通った声色。


『スギウラさんがノムサンを倒したと耳にして訪ねたまで。……あのID野球の申し子をどうやって屈服させたのか、興味があった』


 ヒロミツは振り返りもせず、夜景を見つめたまま淡々と返す。


『力でねじ伏せたまで。泰朝という男の執念と、儂の右腕があれば造作もない』


 スギウラが静かに答える。右腕と言ってもボールだから腕はないが、自信が漲っていた。


『どうよ? 泰朝に仕えぬか? ノムサンも手に入れた今、我らは無敵ぞ』


 スギウラが勧誘するが、ヒロミツはフッと自嘲気味に笑った。


『ありがたい申し出だがお断りする。しばらく旅をして戦国の世を楽しむわ。……俺は縛られるのが嫌いなんでね』


『相も変わらぬ異端児よ。名球会を儂の名前を出して拒否しおった頃のままか』


 スギウラが苦笑する。


『スギウラさんが入会できない名球会に意味なんぞない。ただ、それだけよ。記録より記憶、俺は俺の道を行く』


 ヒロミツの言葉にスギウラは一瞬沈黙し、哀愁を漂わせた。


『……旅してツルオカの親分の噂を耳にしたら知らせてくれ。裏切り者のノムサンの処遇は親分に任せたいからな』


『ま、気が向いたらな。……じゃあな、伝説のアンダースロー』


 ヒロミツは欄干を飛び、夜の闇へと消えていった。


 ***


 さて、こちらは三河への旅路を進む私たち救出部隊。

 案内役の保長さんの先導で、街道を外れた獣道を進んでいるんだけど……。


「保長さん、おじいちゃんなのに速すぎない⁉」


 私がゼエゼエ言いながら文句を言う。

 だって、腰の曲がった白髪のお爺さんだよ?

 なのに山道を飛ぶように進んでいくんだもん。

 私が「おじいちゃん、足腰大丈夫?」って手を貸そうとしたら、残像を残して数メートル先に移動して「お気遣い無用でござる」なんて言われちゃったし。


「伊賀の抜け忍か。甲賀とは勝手が違うな」


 一益さんが対抗意識を燃やして、木々の枝を軽やかに飛び移っていく。

 忍者ってすごいなあ。


「ねえ、保長さんも一益さんも凄腕の忍者なのに、どうして伊賀や甲賀の地元から尾張や三河に来たんですか?」


 休憩中、おにぎりを頬張りながら私は素朴な疑問をぶつけてみた。

 だって地元愛とかないのかなって。

 すると2人は顔を見合わせ、全く同時に口を開いた。


「「飯を食うため」」


 ……ハモった。しかも即答。

 あまりの即物的な答えに私がポカンとしていると、隣で秀吉さんが苦笑いしながら教えてくれた。


「真昼、伊賀も甲賀も山奥で土地が痩せているのだよ。多くの人を養うだけの作物が採れん。だから彼らは腕を磨き、傭兵として他国へ出稼ぎに出るしかないのだ」


「なるほど……切実な就職事情があったんですね」


 忍者も生活かかってるんだね。なんか夢が壊れたような、逆に親近感が湧いたような。


「さて、休憩は終わりだ。行くぞ」


 信長様が立ち上がる。

 背中にはバットとボールが入った袋を背負い、ピクニック気分で鼻歌交じりだ。

 『人間50年~♪』って敦盛をロック調にアレンジして歌ってるけど、音程が微妙にズレてるのが気になる。


「信長様、救出作戦ですよ? もうちょっと緊張感を……」


「ハハハ! 竹千代の奴、泣いてるかなあ。それともタヌキ寝入りか? 想像するだけで笑えてくるわ」


 楽しそうだなあ、もう。

 秀吉さんと秀長が「いつものことだ」と諦め顔でおにぎりを食べているのがシュールだ。


 そして私たちは三河と尾張の国境、矢作川のほとりに到着した。

 対岸は三河国。ここを渡れば敵地・吉良の勢力圏だ。


「……川向こう、警備が厳重です。泰朝の兵に加え、吉良の兵も巡回しています」


 偵察から戻った一益さんが報告する。

 すると私の懐で、センイチがブルブルと震えだした。


『微かだが……スギウラの気配がする。この川を越えさせまいとする結界のようなプレッシャーじゃ』


 ボールが気配だけで結界を張るって、どんなオカルトだよ。


「ねえ、忍者さんたちの術でドロンと消えて渡れないの?」


 私が提案すると、保長さんが首を横に振った。


「相手に強力な術者がいる場合、術は通りにくいのでござる。スギウラ殿と申す英霊ボール、百地のクソジジイと同じ格がありますな」


 英霊ボール、忍者キラーの性能まであるの? 万能すぎでしょ。


「なら、正面突破……と言いたいが、竹千代が人質だ。策を用いるぞ」


 信長様が珍しく慎重なことを言う。


「この辺りの漁師に変装して紛れ込むのはどうでしょう? 私、網打ちは得意でございます」


 秀吉さんが機転を利かせた提案をする。

 なるほど、漁師なら川を行き来しても怪しまれないかも?


「秀吉さんはいいけど、信長様のオーラ、変装で隠せる?」


 私がもっともな不安を口にすると、信長様はニヤリと笑った。


「俺は漁師の息子役か。悪くない。真昼、お前は獲れたての魚役だ」


「はい⁉ なんで私が魚⁉」


 人間としての尊厳を無視する配役に私が抗議したけど、結局、魚の臭いを誤魔化すために魚籠を背負わされる羽目になった。

 臭い! 磯臭いよ!


 夜闇に紛れ、小舟でこっそり川を渡る私たち。

 対岸に到着すると、闇の中から無数の光る目が見えた。

 松明じゃない。何か、もっと異質な……。


「……出ましたな。三河名物、三河武士の頑固な兵たちじゃ」


 保長さんが低く呟く。

 頑固そうな兵士たちの向こう、東条城の方角から、空に向かって青白い光が立ち昇るのが見えた。


『来るぞ……伝説が』


 センイチの声が震えている。

 伝説のアンダースロー、スギウラ。

 そして捕らわれのタヌキ、元康さん。


 私は魚籠の臭いに耐えながら、隠し持ったバットを握りしめた。


「上等じゃない! 伝説だろうがなんだろうが、打ち砕いてやる!」


 待ってろよ、伝説! 私のフルスイングをお見舞いしてやるからな!

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ