第15話 長谷川真昼、戦国ヤクザと遭遇する
闇世の中、私たちは木曽川のほとりに到着した。
ここを越えれば美濃国。敵地への侵入だ。
こっそり川を渡るはずだったんだけど……。
「ああん? 誰だテメェら。ここが俺ら川並衆の縄張りって知ってて入ってきたのか?」
ザッザッザと足音が響き、松明を持ったガラの悪い集団に囲まれてしまった。
リーダー格と思われる大男は顔に大きな古傷、筋肉ムキムキで棘付きの肩パッドを装備している。
隣にいる細身の男も、目つきが鋭くて完全にその筋の人だ。
「蜂須賀小六だ。文句あるかオラァ!」
「前野小右衛門だ。上等だコラァ!」
うっわ、反社だ。絶対関わっちゃいけない系の人たちだ。
でも、こちとらヤクザの事務所にカチ込んだ経験済みだぞ!
「上等じゃあああああ! ヤクザなんぼのもんじゃい! 私の金属バットの錆にしてやらああああ!」
私は馬から飛び降り、バットを構えて威嚇する。
売られた喧嘩は買うのが流儀だ!
「なんだ、野盗か? 俺の槍の錆にしてくれるわ!」
又左さんが爛々とした目で槍を回していく。完全に戦闘モードだ。
「ああん? なんだその長槍は! 傾奇者かオラァ!」
「うるせえ! 俺の自慢の槍捌き見るかゴラァ! 風穴開けてやるぞウラァ!」
武闘派同士の睨み合いが始まる。
って、私を武闘派に入れるなよ。
一触即発の空気の中、信長様が面白そうに笑った。
「良い度胸だ。真昼、犬千代、やれ」
「了解!」
「へい! お任せを!」
「待て待て待て! 真昼、又左、早まるな!」
藤吉郎さんが慌てて私の前に立ちはだかる。
「彼らはヤクザじゃない! 川並衆だ! 地域の自警団みたいなものだ!」
「え? 自警団? このナリで?」
「見かけで判断するのは良くないぞ。……小六殿、小右衛門殿、我らは怪しい者ではない。通行の許可を頂きたい」
「ああん? 怪しいに決まってんだろ。特に短い袴の女! てめえはヤバい匂いがプンプン匂うぜ。一体どんだけの修羅場くぐってきたんだコラァ!」
ヤバい匂い? 失敬な。お市ちゃんはずっと私の匂いクンカクンカして至福の表情してくれるぞ。
修羅場なんて経験したこともないぞ。だって私、交際経験皆無だもん!
「アアン? 手土産もなしに通れると思ってんのかぁ? つうか小六! こいつに間違いねえ! いつぞや木曽川を突破してみかじめ料払わなかった妖怪は!」
連中が凄む一触即発の空気。
木曽川? 突破? ああ、戦国時代初日のあのヤクザたちか、こいつら。
フッフッフ、可愛い女子高生を妖怪呼ばわりして命があると思うなよ?
私が無音でバットを、又左さんが槍を構え、小六たちも身構えていると?
「あら、ごめんなさいね。手土産はないけれど、私たちを向こう岸まで運んでくださらないかしら?」
「怖いよお……お市様ぁ」
お市ちゃんとねねちゃんが私の後ろからちょこんと顔を出した。
月明かりに照らされたお市ちゃんの姿は、まさに深窓の姫君と呼ぶのに相応しい。
さっきまで私の背中で「真昼の匂いスーハースーハー」してた変態とは思えない気品だ。
ねねちゃんは庇護欲をそそる涙目してプルプル震えているけど、演技力パねえ……。
さっき小声で「なんだ、ただの野盗かよ」って舌打ちしたの、私聞いてるよ?
「……ッ!」
小六さんと小右衛門さんが硬直した。
そして顔を真っ赤にしてモジモジし始めたのだ。
「か、かわええ……お市様? 清洲織田家のお姫様⁉」
「ごめんよお、おっちゃんたち、悪いおっちゃんじゃないよお……」
「あら、お礼に、とびっきりの笑顔をあげるわ。ねね、一緒に」
「はい、お市様」
「「ニコッ♥」」
ズキュウウウン!
効果音が聞こえた気がした。
屈強な男たちが、お市ちゃんとねねちゃんにハートを射抜かれて崩れ落ちる。
「へ、へい! 喜んでお運びしやす! お姫様を濡らすんじゃねえぞ!」
「了解っすアニキ! 最高速で行くっす!」
あっさり陥落する小六さんたちを見て、又左さんが槍を下ろしてつまらなそうに呟く。
「なんだ、つまらん。俺の出番なしかよ」
「やれやれ、これも策通りですか? 信長様? 斎藤家寄りの川並衆とこんな対面するなんて」
「ふん、さあな」
光秀さんの嘆息に信長様はそっぽを向く。
藤吉郎さんの肩に乗った小一郎が、やれやれと肩をすくめたのだった。
***
小六さんたちの漕ぐ舟が夜霧の立ち込める木曽川を滑るように進んでいく。
さすがプロ。揺れも少ないし快適だね。
『おい、真昼。前方に反応ありじゃ。この気配……まさか』
センイチが緊張した声で囁いてくる。
光秀さんがスッと手をかざして呟く。
「見えますか、真昼殿。あの中州」
夜霧の中、川の真ん中にポツンと立つ人影があった。
「うおっ! 華奢な美少年じゃん!」
喉仏を確認する。もう騙されたくないからね。
うん、美少年決定。
なんだろ? 夜中に1人で何してんだろ?
「こんな夜更けに美濃になんの用ですか? ……裏切り者さんたち」
美少年の視線が、光秀さんと藤吉郎さんを射抜く。
裏切り者?
「十兵衛、誰だ、あの小僧」
「……竹中半兵衛です。たしか16歳になっているはず」
信長様の興味津々声に、光秀さんが苦々しく言う。
「ほう、道三に味方し、義龍の軍勢を弱冠12歳で退けた奴か」
「……ですがすでに、義龍に忠誠を誓っています」
半兵衛? おお! ソシャゲで知力めっちゃ高い天才軍師の? 16歳にしては落ち着きすぎでしょ。
私の同級生に老け顔はいたけど、あんな底知れない冷静さで佇んでる奴、見たことないよ。
「ここから先は行き止まりですよ。お引き取りください」
華奢な儚げな美少年アピールしながら、彼の手には鈍く光るボールが握られている。
『ゲェーッ! あれはモリモチさん⁉ まさかモリミチさんまでこっちに降りておったとは』
私の懐でセンイチが騒ぎ出した。
「モリモチ?」
『ドラゴンズ一筋、いぶし銀の二塁手よ! 華麗なバックトスで幾度もチームを救った儂の大先輩じゃ! 怒らせると無言で詰め寄ってくるから怖えぞ!』
センイチがビビってる⁉
瞬間湯沸かし器みたいなセンイチが?
どんだけ怖い人なんだ、モリモチさん!




