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神力のロザリオ②

「油断したわね、【堕天使】。人間を舐めてるからこうなるのよ」


「テメェ……! そのロザリオ、生半可な聖具じゃねえな……!?」


 顔を煤まみれにした【堕天使】が、忌々しげにマーガレットを睨む。着こなしていた紺色のスーツも所々が焼けて破けており、さっきまでの身奇麗さはどこへやらだ。


「感じるぞ……! 祝福どころじゃない、忌々しい神の力そのものをな……! これは、月の女神か……!」


 【堕天使】の顔が憎悪に歪む。押し殺した声が、内心の様子を雄弁に物語っていた。


「良いだろう、少々侮りすぎていたことは認めてやる。だが、調子に乗るのもここまでだ」


 【堕天使】が、被っていたトリルビー帽子を脱いで投げ捨てた。その下からは、天使の象徴である輪ではなく、クワガタムシの頭のように太く湾曲した二本の角が禍々しく現れる。

 悪魔の王、サタンの証――。


「光栄に思うんだな! 俺の、悪意の街を支配する王としてのこの姿を見られることにな!」


 傲然とした台詞と共に、【堕天使】の身体が変貌していく。

 マーガレットはそれから目をそらすことなく、強くロザリオを握りしめて啖呵を切る。


「あんたがどれだけ強くても、私達は負けないわ! アルテナが来るまで、耐え切って見せるわよ!」


 現在の持ち主の決意に応えるように、ロザリオが再び輝いた。



 アルテナとジークは、リヴァーデンの中央区を踏破するべく走り続けている。目的地は、写真にあった例の時計塔だ。

 既に、それらしき建物は見えている。見上げる先に、ひときわ高い尖塔のようなシルエットがそびえているのが確認できた。頂上付近の四角い壁面に、それぞれ時計らしき巨大な円形が取り付けられているのも分かる。距離にして、あと一町と少し先といったところだろうか。


「アルテナ、どうやらお前の勘は当たっていたようだな」


「ええ。導きの光も、あの塔に向かって伸びています」


 ロザリオから発せられる青い光の線が向かう先を、アルテナは今一度確かめた。

 やはり間違いない。マーガレットは、きっと彼処に居る。


「急ぎましょう、先輩!」


「ああ、だがやっこさんもそうすんなりとは通してくれないようだぜ」


 ジークの言葉に促されて辺りを見渡すと、突然周囲の建物の窓が一斉に開いた。

 薄暗い屋内から、いくつもの銃口が突き出されてこちらを狙っている。その傍らに控える、いくつもの緑色の小悪魔達。


「そこの陰だ! 射線を遮れ!」


 ジークの指示が飛ぶと同時に、アルテナは直近の建物と建物の間へ身体を滑り込ませた。

 間髪を入れずに響き渡る無数の銃声。アルテナが隠れた場所の付近にも、いくつかの弾が着弾して細かい振動を伝えてきた。


「グレムリン共め、待ち伏せしてやがった! 建物の中から狙撃してくるたぁ小賢しいぜ!」


 アルテナとは別の陰に隠れたジークが、悪態をつきながら拳銃で反撃する。しかし、数も地形もこちらが不利な為に軽い牽制程度にしかなっていない。

 ジークが引っ込んだ瞬間、再びグレムリン達が銃の掃射を浴びせてきた。アルテナとジークの間にある道路に銃弾が雨あられと降り注ぎ、コンクリートを削り取ってゆく。


「先輩、どうしますか!?」


「この道を進むのは無理だな……。よし、二手に分かれるぞ! 路地裏は入り組んでいるだろうから、そこを利用して時計塔を目指すんだ!」


「分かりました!」


 さすがにこうも敵に地の利を抑えられていては太刀打ちできない。またもや単独で動かざるを得ない状況に一抹の不安は残るが、ジークならひとりでも大丈夫だろう。アルテナの方も、ジークの期待を裏切るほど自分に自信がないわけではない。


「もうすぐだから。待っててね、マーガレット……!」


 ロザリオを握りしめながら、アルテナは肚を据え直した。

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