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銀の銃弾①

「マーガレット!」


 アルテナは黒い大蛇の強襲を躱しながらマーガレットの名を呼び続けた。

 早く彼女の元まで行かなくては。しかし、目の前の怪物がそれを許してはくれない。


 橋の上に這い上がってきた黒い大蛇は、大きく開いた口でアルテナを丸呑みにしようとしてくる。あの勢いで迫りくる巨大な異形の牙を防ぐ手立てはない。防御しようものなら圧倒的な体格差でそのまま弾き飛ばされるだろう。回避に徹するしか方法がないのだ。

 アルテナが飛び退った場所に大蛇の頭が激突する。橋の一部が砕け、無軌道に散らばる瓦礫が手や脚を掠めた。


「くっ……! このっ!」


 回避行動の動きを利用して大鎌を振る。ギリギリのところで黒い大蛇の胴体に届いたが、浅い。表皮を薄く裂いた程度だ。

 体勢を立て直して第二撃を見舞おうとするも、黒い大蛇の反応はそれよりも速かった。橋の表面や欄干を削り取りながら巨体が離れていく。

 アルテナが大鎌を構え直した時には、既にその全身は川中に没していた。

 一時的に黒い大蛇の姿が消えたことで、目の前の視界が開ける。


「マーガレット!」


 急いで彼女の姿を探すが、何処にも居ない。あの青年の姿も消えていた。


「遅かった……! あいつに拐われたのね……!」


 アルテナは強く歯を食いしばる。自分が付いていながら、なんという失態だ。

 恐らく、あの男こそがこのリヴァーデンを生み出した元凶だろう。牧師の手記にあった【堕天使】とは、あいつのことに違いない。

 敵の正体が分かったことは朗報といって良いだろうが、それを喜ぶ気にはなれない。なんとしても、マーガレットを救い出さなければ。


「けどその前に、まずはこいつね」


 アルテナは腰を落とし、再び大鎌を構えた。

 あの黒い大蛇はまだ川中から姿を現さない。しかし、このままアルテナを逃がすつもりはないだろう。【堕天使】の意を受けた使い魔は今やサーヴスなど眼中になく、ただただアルテナのみを狙っている。


「さあ、どこからでも来なさい」


 耳を澄まし、水面に意識を集中して敵の攻撃に備える。どうしても受け身になってしまう今の状況は不利だが、そこを逆に利用して後の先を取ってやる。

 五感の全てを張り巡らし、その瞬間を待つ。


 ――ポチャン!


「はっ!?」


 水音がした方へ反射的に振り向く。

 ……が、そこにあったのは黒い水面に広がる波紋だけだった。


「しまっ……!」


 引っ掛けられたことを悟った瞬間、アルテナの背後から轟音が上がる。

 吹き上がる水しぶきと共に、アルテナの周囲に巨大な影が落ちた。

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