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謎の街、リヴァーデン①

「い、つつ……!」


 ガンガンと痛む頭を抑えて、マーガレットは身体を起こした。


「わ、私、生きてる……?」


 頭の中で跳ね回る痛みと、腰と腹に食い込むようなコルセットの痛みが、まだ死んでいないことの証明になっているような気がして、マーガレットはげんなりしつつもどこか安堵を覚えた。


「此処は……? 一体、どうなったの……?」


 頭を軽く振って、そっと目を開ける。頭痛の影響で視界は霞んでぼやけていたが、時間の経過と共にだんだんと焦点が合わさってきた。


「え……!?」


 そして驚愕した。そこは、さっきまで居た汽車の客室ではない。

 赤煉瓦を積み上げて作られた、伝統ある従来の建築様式の他に、鋼鉄やコンクリートといった時代の最先端をゆく豊かな建築物の習合。それらを彩る装飾の数々も、ひと目見て非常に洗練されたデザインだと分かる。壮麗な意匠を凝らして造り上げられた都市の街並みが、マーガレットの眼前に広がっている。


 どうやら自分は、いつの間にか街のど真ん中に倒れていたらしい。


「嘘!? 汽車は……!?」


 慌てて周囲に首を巡らして自分の乗ってきた汽車を探すも、辺りには汽車どころか線路も駅も見当たらない。それどころか、見渡す限り建物群ばかりで人の姿がまったく無い。

 完全に、自分は見知らぬ街中でひとり放置されていた。


「あのー! 誰か、誰か居ませんかー!?」


 声の限りに呼びかけてみても、どこからも反応は返ってこない。やはり、少なくともこの近辺に人は居ないようだ。


「と、とにかく移動しなきゃ……! あの汽車を探さなきゃ!」


 不気味な沈黙が横たわる街の空気に押し潰されそうになりつつも、マーガレットは自分を奮い立たせて立ち上がった。とにかく、此処でじっとしていても始まらない。何ひとつ分からない、理不尽極まる状況とはいえ、ただうずくまっているよりは無理やりにでも行動した方がずっと良い。

 何はともあれ、まずは汽車だ。来た時に乗っていたあの汽車を見つければ、何か分かるかも。


「もう、なんなのよ……! なんで私が、こんな目に遭わないといけないの?」


 無人の街中を恐る恐る進みつつ、マーガレットは湧き上がる怒りを言葉にして吐き出す。そうすることで、絶えず膨らむ不安と恐怖を払い除けようとしていた。

 それにしてもおかしな街だ。所狭しと建てられている建築物も、自分が今踏みしめて歩いている道路も、どれもお金をかけて整備された立派なものだというのに人っ子ひとり見当たらないなんて。

 街路沿いに並んでいるレンガ造りの家屋も、軒先に看板が垂れているところから何かの商店と推定できるのだが、奇妙なことにどの看板ものっぺりした無地だ。これでは何の店なのか分からない。ショーウィンドウらしきものも見当たらないので、中の様子がどうなっているのかも不明だ。

 目線を更に上に上げてみる。空はどんよりと赤黒く、ところどころに雲のようなものが渦を巻いており、夕焼けともまた違う異様な有り様となっていた。まるで地獄のような空模様だ。その陰鬱な空気が地上にまで降りてきて、街全体を余計におどろおどろしいものにしているのだろう。


「あいつが言っていたのって、この街のことなの? 確か、リヴァーデンとか言ってたけど」


 その名前を頼りに記憶を掘り起こそうと試みたが、該当する都市は浮かばなかった。マーガレットはこれでも、王都在住の貴族階級に連なる身分だ。淑女の嗜みとして、やりたくもない数々の勉強を両親に強いられてきたけど、それでもいくらかその甲斐はあって恥をかかない程度の知識は身に付いている筈だ。国の主要な都市から地方の田舎の名称まで、基礎的な地理情報はちゃんと把握しているが、どこにもリヴァーデンなどという街は無かったと記憶している。

 こんな不可思議な街、あったとしたら必ず噂のひとつくらい耳に入って来そうなものだが。


「もしかして、私の居た国じゃないの?」


 もしそうだとしたら非常に厄介だ。万が一誰か見つけたとしても、言葉が通じない可能性が高い。そうなると、当然ながら助けも求められない。

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