先輩の行方③
「……。どうやら先輩、リヴァーデンの中央区を目指しているみたい」
「中央区? それはどこ?」
「この隠れ家とは逆方向ね。さっきあのバイオリン職人の家で見た、サーヴス共の溢れるメインストリートをずっと奥に行ったところにある区画よ」
「うわ……」
マーガレットは思わず顔をしかめた。先輩とやらは、そんな危険な場所へわざわざひとりで出向いたのか。
「その中央区には何があるの?」
「詳しいことはまだ分かっていないわ。マーガレットも見たように、あそこに行くには大量のサーヴス共を掻い潜る必要があるからね。さすがにあれだけの数だと、ロザリオの力をもってしても全員から気付かれずに行けるか確証がないわ」
アルテナが、ロザリオに掛けられたサファイアのチェーンを握りしめる。彼女の握力に応えるように、小さな蒼い宝石群がきらりと光ったような気がした。
「まさか先輩さんは、そんな危険な場所をこれからひとりで調べようと?」
「しているみたいね。走り書きで、中央区に何か手がかりが見つかりそうだってあるけど、どうしてそう思ったのかまでは書いてないわ」
マーガレットは、アルテナから紙のメモを受け取って読んでみた。……アルテナの言ったこと以上の情報は読み取れない。
「追いかける」
「言うと思ったわ」
尻を叩いてホコリを払うアルテナを、マーガレットはため息と共に見つめた。
「先輩が何を掴んだにせよ、危険な場所に向かうなら早く合流しないといけないわ。彼の背中を守れるのは、わたしだけだもの」
「じゃあ、私も行く」
アルテナが、嫌そうな顔でマーガレットを見た。
「また付いてくるの?」
「うん。だってアルテナ、見ていて危なっかしいし。行き当たりばったりに身を任せすぎて、途中で斃れられたら私もおしまいよ。だから私が、貴女を監視する」
「戦えないくせに、大口を叩くわね」
「戦えるくせに、考えなしな人よりマシだと思うけど」
「言うじゃない」
アルテナは、不敵に口角を上げてマーガレットを見据えた。
「こっちも言っておくけど、指示に従わない民間人は守りきれないわ」
「承知の上よ。此処で、帰って来られるかも分からない貴女達をただ待っているよりマシだから」
マーガレットは覚悟を目に溜めてアルテナを見返した。お互いの真っ直ぐな視線が正面からぶつかり合う。
やがて、アルテナはふっと力を抜いて白い歯を見せた。
「良いわ。ちゃんと分かっているなら、付いてきなさい」
「……ありがとう」
マーガレットもまた、僅かに破顔してみせた。
恐怖が無くなったわけではない。それでも、アルテナと一緒ならどんな危険が襲ってきても大丈夫だ。
マーガレットは、そう確信していた。