先輩の行方①
マーガレットとアルテナは、それからも一通り内部を捜索した上で教会を後にした。
「結局、他にめぼしいものは見つからなかったね」
「ええ、この地図が役に立ってくれれば良いのだけど」
アルテナは真剣な顔で地図に描かれた時計塔を睨みつけている。彼女に代わってマーガレットが通りの左右に目を配り、サーヴス達の姿があるかどうか確認した。
「目に見える範囲では誰も居ないみたい。行くなら今のうちだよ」
「そうね。さすがに短時間で何度も戦闘を強いられるのは厳しいし、あの牧師目当てで他のサーヴスどもが寄り付いて来る前に此処を去るのが賢明ね」
アルテナは念の為にと、マーガレットが見渡した左右の通路をもう一度自分で確認する。それからマーガレットを手招きし、自分が先立って通りを歩き始めた。
「ねえアルテナ、先輩さんと合流するって言ってたけど当てはあるの?」
「ひとますさっきの隠れ家に戻るわ。もしかしたら先輩が帰ってきているかもしれない」
やっぱりそれか、とマーガレットは少しげんなりした。付き従う身であまり文句を言いたくはないが、それでも呆れのあまり内心の疑問が口をつく。
「もっとちゃんとした計画は無いの? 例えば何時まで街を調べて、何時に何処の隠れ家に集合する……とか」
「あなた、いくらなんでもわたしをバカにしすぎじゃない?」
ムッとした顔のアルテナが、振り返ってマーガレットを睨みつける。
「そりゃ当初はきちんとお互いの合流地点と活動時間を明確に決めていたわよ。でもこの街で過ごすうちに、その通りにするのは難しいと判断したの。周りが敵だらけな以上、臨機応変に徹するより他にないのよ」
確かに、理性を失ったサーヴスだらけのこの街で思うように動くのは難しいだろう。いくつかの拠点を確保したというだけでも、十二分に凄い成果かも知れない。ましてや単独でとなれば、各々のスタンドプレイに託すしか方法はないということはマーガレットにも理解できる。
……そもそもたった二人だけでこんなところに潜入するなよ、と思わなくもないが。
「もし先輩が居なかったら?」
「しばらく待ってみる。それでも帰ってこなかったら他の隠れ家に移動する。まあ先輩の腕前なら万が一ということもないと思うけど、それでも状況次第ではどうなるか分からないからね」
「移動するのは良いけど、その前に隠れ家にメモくらいは残しておきましょうよ」
「だからわたしをバカにするのは止めてってば! それくらい、ちゃんと考えてるに決まってるでしょう!?」
「ほんとかな~? さっきもそうだったけど、アルテナって結構直情径行なところがあると思うし」
「なっ……!?」
アルテナの顔がみるみる赤く染まっていく。羞恥と怒りがないまぜになった彼女の顔を見て、マーガレットは逆に安心感を覚えた。
やっぱり、彼女も年相応の表情を持つ女の子なのだ。