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眷属たる悪魔②

「ええっ!?」


 大開きになった左右の翼膜から、無数の黒いものが生まれて礼拝堂の中を飛び回る。コウモリのような、羽毛のない剥き出しの翼だったにも関わらず、それらの黒い何かは翼膜から直接排出されているように見えた。

 その先端は、鋭利に尖っている。まるで巨大なとげだ。


「先程のは小手調べ。これはどうです!?」


 悪魔の合図と共に、全ての黒い棘が一方向を指し示し、その一点に向けて殺到する。

 一点とは他でもなく、アルテナのことだ。


「どうです、これなら躱せますまい!? 全てを撃ち落とすのも不可能でしょう!」


 勝ちを確信した悪魔のせせら笑いが響く。

 マーガレットにも、今度こそアルテナは絶体絶命に見えた。

 さっきは大量の心なきサーヴス達をいなしたが、今度の黒い弾幕はまるで荒れ狂う濁流だ。それも前後左右あらゆるところから迫ってくるとなると、如何に技量に長けた戦士であったとしても防ぎ切ることは出来まい。


 恐るべき“面”の攻撃。これが、人間を超越した怪物の本領発揮ということか。


「アルテナっ!」


 黒い濁流に呑み込まれそうになる彼女を、マーガレットは絶望と共に見つめた。


「父さん、どうか力を……!」


 アルテナが大鎌を支える方とは別の手を掲げる。そこに握り込まれているのは、サファイアのチェーンをあしらった例のロザリオだった。

 彼女は大きく息を吸い、肚から声を轟かせた。


「悪しき力から、我を守りたまえ!」


 途端に、ロザリオを中心に白い光が迸り、ドーム状となってアルテナの周囲を包んだ。

 そこへ、悪魔が放った黒い濁流が直撃する。


「な、なんだと!?」


 直後に悪魔が漏らした驚愕の叫びは、マーガレットの心の声とシンクロした。

 

 まるで川の中洲にそびえる大岩のように、アルテナを包む白いドームが黒い濁流を難なく受け流していた。

 濁流を構成する黒い飛沫の尽くを白い壁が弾き返しており、内側に侵入できた飛沫は一粒も無い。どれだけの勢い、どれだけの物量を持ってしても、まるでそこが聖なる領域のように白光はいささかも陰りを見せなかった。


「見たかしら? 神様はどうやら、敬虔な信徒の味方だそうよ」


「おのれ……! そんなちっぽけな光の壁が、まさか神の奇跡だとでも……!? 忌々しい……!」


 悪魔が両の拳を握りしめ、ぎりぎりと歯ぎしりをする。


「牧師である私は見棄てたというのに、そんな小娘は守るというのか、神よ……!」


 続くうめきは、悲鳴のようにも嫉妬のようにもマーガレットには聴こえた。


「本音が漏れたようね、堕ちた牧師さん。神に対する依存が強すぎたから、その分失望も深くて、それであなたもこの街に呼ばれちゃったのかしら?」


 黒い濁流を捌き切り、白光のベールを解除したアルテナが再び大鎌を構え直す。


「何を、知ったふうな口を……!」


「自分から信仰を棄てた者に、神は微笑まないのよ!」


 微かに動揺を見せた悪魔の隙を、アルテナは見逃さなかった。

 マーガレットがまばたきを挟んだ後には、もう既に彼女は相手の間合いに飛び込んで大鎌を振りかぶっていた。


「なっ……!?」


 心の合間に生じた僅かな緩み。そこを的確に見抜いて衝いてきた眼前の少女の技量に、悪魔が大きく目を見開く。

 反射的に脚を引こうとするが、既に時遅し。


「こ、これは!?」


 悪魔が足元を見て絶句する。黒毛に覆われた偶蹄目のような彼の脚には、いつの間にか光の魔法陣が組み付いていた。どうやらそれが、悪魔の動きを封じているらしい。


「し、しまっ――!?」


 知覚できない内に術中に嵌められたと覚った悪魔が、恐怖に引きつった顔でアルテナを見る。


「あなたに負けるほど、わたしは未熟じゃない!」


 岩をも穿つような大鎌の一撃が、かつて牧師だった悪魔を断ち切った。

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