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隠れ家にて②

「恐らくあの職人は、自分のバイオリン造りを極めたかったのね。一心不乱に造り続けて、最高のバイオリンを仕上げる。自分が納得するまでとことんやる。それがあの職人が抱えた欲望の形だったに違いないわ」


「でも、それだけの作業を進めるには、相当な量の材料が必要になる筈よね」


「ええ、そしてその材料を、彼に供給し続けている存在がある……」


「教会って、彼は言ってたわ」


 こんな街にも教会があることにマーガレットは驚いたが、果たしてそこはちゃんと機能しているのだろうか。

 神の教えを説き人々を導く不動の大山が教会というものである。街の現状を把握しているなら、真っ先に事態の解決に動かなければいけない存在ではないか。

 一応あの店主の言葉から、助けを求めにやってくる人々に救いの手は差し伸べているようだが……。


「あからさまに臭うのよ。そこでならもしかしたら、わたしの知りたい情報が手に入るかも知れない」


「他にも大勢、人が立ち寄っているだろうしね」


 教会には日々多くの人々が行き交い、時には己の罪を告白したりもする。つまり、情報が集まりやすいのだ。


「でも、アルテナの期待する情報ってどんなの?」


「マーガレットが会ったっていう、謎の青年の正体についての手がかりよ」


「あっ!」


 そこでようやくマーガレットは思い出した。


「そうだよアルテナ! あの青年は誰なの!? さっきは聴きそびれちゃったけど、教えてよ! 心当たりがあるんでしょ!?」


 マーガレットも、心の中で既にあの青年が自分をこんな目に遭わせた張本人だと断定している。朝からの記憶が無く、途切れた先で最初に出会って意味深なセリフを浴びせてきたのだ。間違いなく、この街の事態にも噛んでいる。


「ああ、それね。う~ん、そうね……」


 アルテナはなぜだか言い淀んでいた。マーガレットに教えても良いものかどうか、迷っている様子が目で分かる。


「どうしたの?」


「教えても良いんだけど、そうしたらあなた、此処で大人しく待っててくれる?」


 どうやら、マーガレットが深入りしないかが心配らしい。確かに、街の現状を鑑みれば足手まといのマーガレットを連れて移動するのは得策ではない。

 それを承知の上でマーガレットは、きっぱりと首を横に振った。


「此処で待っててもこの街を出られる保証は無いわ。アルテナの目的だって、本来は私を救うことではないのでしょう?」


 この街、リヴァーデンを生み出している元凶を見つけ出して討伐する――。それが彼女達の目的だ。街を彷徨うサーヴス達を欲望から解放し、救助することではない。

 つまり、マーガレットを助ける義理も本当なら無いということなのだ。


 もちろん、アルテナはつい先ほどできる限りの助力をすると約束してくれた。しかし、それを額面通りまともに受け取ってのほほんと待っていては、おそらく破滅を迎えることになる。切った貼ったの世界を生きている彼女なら、マーガレットが抜き差しならない窮地に陥った時、きっとシビアな判断を下すだろう。

 アルテナの本格的な協力が期待できない以上、マーガレットもただ動かずじっと待つだけというわけにはいかない。自分自身を、この街から救い出す行動をとらなければならない。


「わたし達が元凶を取り除けば、自然とこの街も消滅するわ。そうしたらマーガレットも無事に家に帰ることができる筈。それでも?」


「じゃあ、いつそれが果たされるか、はっきり期日を確約できる?」


「無理ね」


 両肩をすくめて、アルテナはあっさりと認めた。


「いつになるか分からないなら、アルテナの指示には従えない。私の人生における責任は、私自身で担わないとダメなの」


「はぁ~……。分かったわ。そもそも、さっきわたし達は一蓮托生だって約束を交わしたばかりだしね」


 アルテナは苦笑いしつつ、机の上からひらりと降りた。


「それじゃ、件の教会ってとこを探しに行きましょうか。マーガレットが会った青年のことも、そこに行けば多分わたしが口で説明するよりもはっきりと分かると思うわ」


 マーガレットは頷きを返しつつ、スツール椅子から無造作に立ち上がった。

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