欲望の亡者、サーヴス③
「イービル、イレイス……!?」
マーガレットは目を白黒させるしか無かった。アルテナが、あの身の丈ほどもある巨大な鎌で化け物――【サーヴス】と化した男を斃した時の光景が蘇る。
「つまりアルテナは、その怪異を狩るチームの命令で此処に来たってこと?」
「そうよ、これがわたしの初仕事だったわ。先輩と一緒に、二人で儀式を行ってこの街に侵入したの。それで、手分けして色々と情報収集をしている時にあなたを見つけたというわけ」
「そうだったんだ……」
つまり自分は運が良かったということになる。あそこでアルテナに見つけてもらわなかったら、間違いなく自分はあの男に蹂躙され、殺されてしまっていただろう。
「ありがとう、アルテナ。貴女に見つけてもらえて、私は実に幸運だったわ」
「それはお互い様のようね」
アルテナの口調が僅かに変わった。マーガレットを見つめる眼差しも真剣さを増す。
「さっき、わたしはこう言ったわよね。“この街は現実じゃない、誰かが生み出したものだ”って」
「え、ええ」
アルテナの雰囲気に気圧されて、マーガレットは思わずのけぞる。すると、向こうは逃がすまいとするかのように更に詰め寄ってきた。
「あなたは正気を保っている。連れてこられてからまだ日が浅いんでしょう? それなら、自分を此処に誘った奴のことを覚えているんじゃない?」
途端に思い出したのは、汽車の中で出会ったあの青年だった。マーガレットは「あっ!」と声を上げてそれを説明する。
「私、気が付いたら汽車に乗っていたの。何処に向かうのかも分からず不安になってあちこち見渡していたら、いつの間にか変な男が目の前の座席に座ってて……」
「どんな男?」
「私よりいくらか上ってくらいの、若いヤツだった。きっちりとスーツを着て、帽子も被ってて、背が高くて……」
「そいつになんて言われたの?」
「……もう引き返すことは出来ない。これはそういう契約だ……って、そんなことを言っていたわ」
「当たり、ね」
アルテナは得心がいったとばかりに大きく頷く。
そんな彼女を見て、マーガレットの疑問は一気に噴出した。
「ねえ、あいつは誰なの? この街を誰かが創ったって、それってあいつのことなの? あいつが言っていたことって、どういう意味?」
アルテナはすぐには答えず、碧色の瞳でじっとマーガレットを見つめる。焦れる気持ちを抑えて、マーガレットは彼女の返事を待った。
「この街を創ったのが、マーガレットのいうその青年かどうかまでは分からない。でも、そいつは間違いなく悪意ある目的に沿って動いていると思う。恐らく正体は――」
そこまでアルテナが言いかけた時である。
下の階から、バタンという大きな音が鳴った。