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マーガレットとアルテナ①

「ねえアルテナ、歩きながらで良いから教えて。この街は一体なんなの? さっきの男は何者?」


 手を引かれるがままアルテナに付いてゆくマーガレットは、とにかく少しでも情報を得たくて道すがら質問を繰り返した。

 それに対するアルテナの答えは実に簡潔である。


「街の名はリヴァーデン。さっきの男みたいな、どうしようもない連中が暮らす掃き溜めよ。で、あの男はこの街に骨までしゃぶり尽くされてああなった。それをわたしが狩ったの。ここまでは理解できた?」


「うん、それは分かった。でも、出来ればもう少し詳しく知りたいなー……って」


「さっきも言ったでしょ、今は無理。多分、受け入れるのに時間がかかるから今詳しく説明しても混乱するだけ。黙ってわたしに付いてきて」


 にべもない返答である。マーガレットは仕方なく口をつぐんで、改めて街中を見渡した。

 やはり、どの建物にも明かりがなく、人の気配がしない。赤黒い、禍々しい空に浮かぶ無人の街並みは、まるで墓場のように物寂しく不気味だ。

 居並ぶ建物は赤煉瓦、それらを取り巻く鉄製の柵、硬く滑らかな地面は隙間をコンクリートで埋めた石畳で、そこには下水に通じる通気孔らしきものもあり、街路には一定間隔で街灯が立ち、道路の幅はこれがメインストリートかと思える程に広い。

 ひと目で、豊かで栄えている街だと分かる。なのにこの静けさはどうしたことか。


 マーガレットが此処で出会った人物と言えば、このアルテナとあの化け物となった薄汚れた男だけである。でもアルテナの口ぶりでは、他にも大勢がこの街で暮らしているようだ。それもさっきの男と似たりよったりの、良く言えばあまり感心できない類の人間達が。その彼らはどこに潜んでいるのだろう?


 と、マーガレットが懸命に思考を巡らせていると、不意に左右の建物群から光が生まれた。ひとつ、ふたつ、みっつ。まるで火が燃え広がるみたいに、黒いシルエットに染まっていた建物達が橙色の明かりに塗り替えられていく。


「まずいわ……!」


 前を行くアルテナの声音に焦りが混じる。


「走ってマーガレット! 連中が出てくる前に身を隠すのよ!」


「え!? えっ!?」


 マーガレットは理解が追いつかないまま、アルテナに強く促されて足を早める。危うくドレスの裾を踏みそうになり、慌てて空いてる方の手で裾を持ち上げながら抗議の声を上げた。


「ま、待って! ちゃんと走るから手を離して! 両手でドレスの裾を持ち上げないと転んじゃうのよ!」


「ああもう、お嬢様ってホントめんどくさいわね! 遅れずに付いてきてよ!」


 パッと解放されたもう片方の手も添えて、マーガレットはむんずと思い切り裾を持ち上げた。そして、さっき男から逃げていた時みたいに全力で両足を持ち上げて前に踏み出す。

 アルテナは振り返らない。素早く左右を警戒しながらひたすら前を向いて走っている。マーガレットは彼女に置いていかれないよう必死で後を追った。

 表通りから裏路地へ。すぐに通り抜けてまた別の小通路へ。入り組んだ街の中を、橙色の光から逃げるように二人の少女の影が疾駆する。

 アルテナの背中は、まだ見失っていない。どうやら彼女が自分に合わせてくれているようだ。ありがたい気遣いだった。一度も振り向いてはくれないけど。


「あれよ! ひとまずあの建物に入りましょう!」


 やがてアルテナは一軒の家屋を指さした。左手側に立つ、およそ二階建てと思われる無骨なフォルムがマーガレットにも見える。その家屋に橙色の明かりは灯っていない。

 先に到着したアルテナが無造作に玄関のドアを開ける。どうやら鍵は掛かっていなかったらしい。そのまま素早く中を確認し、そこで初めてマーガレットを振り返って手招きしてみせた。

 マーガレットはアルテナに続いて、建物の中に転がり込んだ。

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