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前夜の休息、嵐の兆し

 本番前夜、リンは結界を張るべく、別次元に存在するファンタイムプレックスを訪れる。

 アガレスとの穏やかなやり取りの裏で、着実に準備は進んでいくが……その静けさが、逆に不安を煽る。リンの胸に残る違和感。そして、彼女の「勘」が告げるものとは?

 半夜……リンとアガレスは色の無い世界を歩いていた。

「これが別次元のファンタイムプレックス……()と大差ない感じですね」

「適応が早いですねぇ〜! 境界の番人と呼ばれる理由がよく分かる」

 リンは歩みを止め、「今さらですが……」とアガレスの方へ振り返った。

「貴方……どこまで知っているんです? うちに依頼に来た時点で、多くの情報を持っている印象でしたけど」

「あそこで話したことくらいですよ? 後は……貴方個人の活躍を友人から聞いたり、新聞を見たくらいで。弟くんも同様にね」

 アガレスは自身の尾を指先で弄りながら答えた。そして一言、「……もしかして何か疑われてます?」とまごつく。

「あぁいや、純粋に気になっただけですよ。悪魔の中でもハイランクである方が、世の動きを知っているなんて珍しいなと感じただけで……」

「……私が上級の悪魔なのはなるべく口外しないでくださいね。結構面倒なことになるので」

「分かっていますよ」とリンは苦笑交じりに返してから、また歩き始めた。

「ところで……結界の設定ですが、どうされます?」

「とりあえず……次元は表世界のまま、境界線を弄って触れられないようにする……という感じでしょうか」

「ほぅ……可能なのですか、そのようなこと」

 リンは「まぁ」とだけ答えて、空を凪いだ。するとたちまち彼女の前に、ぽっかりと裂け目が顕になる。

「事象、物事……あらゆるものに『境界』というものは存在する。うちはそれを操ったり、管理する家ですから……弄ることなんて造作もない」

 昼間に行っていた作業のように、リンは慣れた手つきで次々と境界を開いては紐を結ぶように、結界を施していく。

「……美しい光景ですねぇ。私なんて時間を操るだけですから、そのようなこと出来ません」

「あら、そちらも中々に優れた力では? うちと同様、あらゆるものに干渉できるわけじゃないですか」

「そうですけどね……そうした場合、()()が面倒になるのですよ。未来が変わり、分岐がその分増えるわけですから」

「確かに、それは面倒ですね」とリンは失笑禁じ得ないといった様子だった。


 数時間に渡って作業を続けていると、「リンさん」とアガレスが申し訳なさそうに声をかけてきた。

「どうかされました?」

「その……本当に申し訳ないんですけど、私一旦抜けても良いですか? もう夜も明けてるし、表の方で最後の調整もしないといけませんし……」

「別に構いませんよ。むしろもう朝ですか……付き合わせてしまって、すみません」

「いやいや!」とアガレスは手を横に振った。

「貴方の仕事の完成度には感心しています。くれぐれも無理のない範囲で続けられてください、では!」

 そう言ってアガレスは一足先に近くの扉から出て行った。

「私も一旦休憩するか……」

 リンはそう呟くと、近くにあったベンチへと腰掛けた。

「……ガーディ、今ちょっといいかしら」

「――はい、何でしょう」

「……うん?」

 リンは耳元のインカムを押さえた。ガーディの声が懐の端末からでは無く、耳元から聞こえたのだ。

「貴方、別の端末にも移れるの?」

「……申し訳ありません。マミが境界とやらの結界を張っている最中、私独自で学習をしていました。今ならどの端末にもアクセス可能です」

「それなら……マコの端末にアクセスは?」

 ガーディは残念そうに言った。

「電源が入っていないのか、アクセス出来ませんでした」

「やっぱりそう上手くは行かないか。それにしても……自分で学習して境界を越えれるなんて凄いじゃない。優秀ね……そういうところは、マコに似たのかしら」

「……と言いますと?」

 リンは懐かしむように目を閉じて話し始めた。

「……マコってね、努力家なのよ。自分の仕事中に専門外のことが絡んだりしたら、時間を確保して、専門外だったことを学ぼうとするの」

「あの子の努力が、貴方として形になっているのを見ると……姉として誇らしいわ」

 リンは微笑を浮かべた後に、腰を上げた。

「一旦私たちも表に戻って手伝いに行きましょうか。いよいよ明日が本番らしいからね」

「はい!」


 ……張り切って表に戻ったものの、前日以上の忙しさに見舞われ、気づけばリンの記憶は営業終了の時間帯へと飛んでいた。

「いや~皆さん本当にご苦労さまでした! 本番ギリギリとなってしまいましたが、様々な調整を経て万全の状態に仕上げられたのは、皆さんのおかげです! 今日はもう居残り禁止! 速やかに帰宅して休んでくださいね!」

 それを聞いて皆口々に「は~い……」と返していた。満身創痍である。リンも声には出さなかったが、疲労を確実に蓄積させていた。

「リンさん、お疲れ様です。顔色から察するに……貴方休まず手伝いに来たでしょう……」

 リンは言葉の代わりに顔を背ける。アガレスが「こっちを見なさい」とまるで子を叱る親のように言った。

「……ヒト手不足かと思ったので」

「いやまぁそうなんですけど! 無理のない範囲でって言ったじゃないですか!」

「全くもう……」とぶつくさ文句を垂れながらアガレスはリンにホテルキーを手渡した。

「すぐ近くにあるホテルの鍵です。明日は昼以降に出社するように」

「……お気遣いどうも」とリンは礼を述べた。


 ホテルの指定された部屋についてすぐ、リンはシャワーを浴び、ベッドへと倒れ込むように沈んだ。

「……」

 証明が先程まで眺めていたステージにあったミラーボールのように眩しく感じ、思わず目を細めるリン。

(明日は何も起こらないといいけど……アベルが大人しくしているとも思えないのよね……)

 自分の勘は最悪なことに、よく当たる。あまり考えたくはないが……長年の経験から、明日もトラブルが起きるのではないか……そうリンは頭を抱え、眠りにつくのだった。

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