表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

カウンセリングの音色

 ジャズとホルスの悩みは、もうすぐ控えたショーで披露する新曲についてだった。聴きすぎて分からなくなった自分たちの音楽を、信頼できる“外の耳”に委ねてみようということになり……。

 コーヒーを淹れ終えたマコは、ジャズとホルスの前にカップを置いた。

「作った曲っていうのは……二週間後のショーに関係してる感じ?」

 ホルスはコーヒーを一口飲んでから答える。

「そうです……マジカルストリートに住んでるヒトのお誕生日らしくて、うちでお祝いしたいって予約が入ったそうなんですよ」

「……こう言っちゃなんだけど、アガレスさんが喜んで引き受けた顔が目に浮かぶよ」

「引き受けたことはいいんだ」と今度はジャズが口を開く。

「音楽隊初の大仕事だからな、出来ることならちゃんと成功させたい。そう思ってホルスと曲を作ったんだが……」

「聴きすぎた結果、本当にこれでいいか分からなくなったと」

 ジャズとホルスは大きく頷いた。そんな彼らの様子を見て、マコは苦笑を浮かべた。

「プロ故の悩みって感じだな。素人の俺でも役に立てるなら、手伝うよ」

「マコさん、ありがとう〜! 早速お願いしてもいいかな……?」

 そう言ってホルスは一枚のディスクを机上に置いた。

 マコはディスクを受け取り、自身のパソコンの挿入口にそれを挿し込んだ。パソコンからディスクを読み取る音が聞こえた後に、ロック調ではあるものの、どこか優雅な音楽が流れてくる。

 マコは目を閉じて、暫くそれを聴き入った。そして時折「ハッピバースデー……」と呟いては、机でリズムを取るように指先を軽く叩く。

 ……聴き終えたマコは目を開けた。

「……どう?」

「これ……西洋の誕生日を祝う曲のフレーズが入ってるよな。それにロックを組み合わせるって斬新な発想だと思う。でも、それが逆に味を出してていいなとも思うよ」

 にこやかに伝えるマコ。ジャズとホルスは互いの顔を見ては、ガッツポーズを取っていた。どうやら不安は解消されたらしい。

「それにしても……流石音楽隊。演奏が上手だな」

「マコは楽器触ったりしたことないのか?」

「全然」と言いながらマコは首を横に振った。

「意外ですね、和楽器とか弾けそうなのに」

 ホルスの言葉にジャズも頷いていた。

「弾けない弾けない。それより……ホントに今の感想で大丈夫なのか?」

「大丈夫です! ジャズ、早速楽屋に戻って本格的にリハーサルしよう!」

「あぁ!」

「そうだ」とジャズがマコの顔を見て言った。

「マコ。せっかくだし、リハーサルの様子を見に来ないか?」

 マコは遠慮がちに軽く仰け反った。

「邪魔になるかもしれないし……キミらが良くても、他のスタッフがどう思うか……」

「そうならないよう、僕らが話をしますよ!」

 ホルスが「行きましょう!」とマコの手を取った。


 ……あれよあれよとリハーサルルームに連れてこられたマコは、椅子に座ってジャズたちを眺めていた。

 彼の姿に気づいたアガレスが「おや? マコくんではないですか」と声をかける。

「どうも……」

「見学ですか? ゆっくりしていってください」

 アガレスの言葉に、マコは軽く頷き返すだけであった。

「さて……皆さん、本日の調子はどうですかね?」

 それにジャズたち五人は言葉の代わりに、マイクスタンドや楽器を掲げて答える。

「バッチリのようですね、それではお好きなタイミングで始められてください」とアガレスは笑った。

 それを合図に、部屋全体がシン……と静まり返る。すると突然、ドラムスティックを数回叩かれ、ドラムとアコースティックギターの音が響き始めた。

 次いでジャズの歌声とエレキギター、キーボードの音がそれぞれをカバーするように演奏を始める。

 マコは目を輝かせてその様子を眺めていた。それはまるで純粋無垢な少年のようで、演奏が終わったと同時に彼は椅子から立ち上がり、自然と拍手をしていた。

「大絶賛されてるみたいですよ、皆さん。良かったですねぇ」

「アンコール行っちゃいます?」と言うオルカの言葉を聞いて、マコは「もう一回聴きたい」と素直に感想を溢していた。

「だってさ、リーダー。ボクらも熱が冷めないし、もう一回やろうよ!」

 ハクバがアコースティックギターを掲げた。

「もしかしたら、ショーの当日もアンコールもらうかもしれないしね」

「……そうだな。よし! アンコールに応えてもう一回だ!」


 ……リハーサルも終わり、カウンセリング室へと戻ったマコは、未だ興奮冷めやまぬといった様子でジャズたちから貰った音楽をパソコンで聴き入っていた。

「すっかりファンとやらになってしまいましたね、マコ。ディスクファイルが大量ですよ……」

「作業のお供にはちょうど良い」

 マコはそう笑いながら、マミに向けてメールを打ち込んでいた。

「そうだ……マサにも共有しようかな。確か文化の研究とかもやり始めたって、あいつ言ってたし」

 マコはメールを打ち込み終えると、すぐに別のメールを開き、貰った音楽データを添付し始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ