昔日の記憶
「ママ見て~、いつもの猫さん!」
ブランコとベンチのみが物寂しく佇んでいる秋の夕暮れ時の公園。学校終わりの時間帯で普段ならボール遊びをする小学生やらでわいわいとして賑わっている時間帯なはずだが、今日は不思議と人気は少なく静かだった。
そんな公園の隅のベンチで座っているのは一組の親子である。
娘と思われる少女が「いつもの猫さん」と呼んだ黒猫もおとなしく隣に座っている。時折、少女が子供らしい加減を知らない力でぐりぐりと頭を撫でているが黒猫に嫌がった様子は見えなかった。隣に座っている母親はそれを微笑ましく見守っていた。
日が沈み、周囲の街灯が灯りだした頃、黒猫は満足げにベンチからひょいと飛び降り、草むらの中に消えてしまった。
そのあと、親子は少しブランコで遊んでいた。少女にとってブランコは特別楽しいものだった。強く漕ぐと母親は心配そうに見ていたが、高く上がれば上がるほど普段は見られない高さの世界が見ることができて気持ちがよくなるのだ。一回だけ立ち漕ぎをしてみようと思ったことがあったが流石に母親に止められてしまった。
ブランコで秋の風に吹かれると肌寒くなってくる。ちょうどそのような頃合いに母はいつも「おうちに帰ろっか」という。
今日も仄かに街灯に照らされた帰り道を二人の親子は手をつないで帰った。
公園では風に揺られて秋の葉っぱが散っていた。