第43話 おしまいのII
いい加減疲れた。木野珈琲店の熱いコーヒーが飲みたい。
「とでも言いたげな顔をしているね」
「よくわかってるじゃないか」
「君とは長い付き合いだからね」
「先月知り合ったばかりだろうが」
亡月プレシャスタワーをバックに、俺たちは対峙する。まだ『II』の忍者刀の持ち主が残ってるってのに、こいつとやり合おうってのか? まだ早いんじゃないか?
「ウルトラ平和同盟は解散かな」
「まーな。所詮は美しいだけの理想論だった。俺も実現してほしかったよ。できるもんなら」
「君になら、できたんじゃないの? 美しい理想を現実にすることが」
「俺はな、夢野。神様でも正義の味方でも主人公の器でもないんだよ。お前のことさえ信じられない俺が、どうして自分を信じられる?」
Xの忍者刀を抜く。奴はポケットに両手を突っ込んだまま、身構えることなく相変わらずニコニコとアルカイックスマイルを浮かべている。
「僕を斬る?」
「それが必要とあらば」
「いいよ。君になら斬られても」
その時である。ニャー、という緊張感のない猫の鳴き声が響いた。
「ニャーン」
いつの間にか、夢野の足元に可愛らしい白猫がいた。そいつは夢野の嫌味なぐらいスラリと長い脚に尻尾を巻き付けながら、ニャーニャー愛らしく鳴く。
野良猫か? そんなわけあるか。ここは選ばれた死者のみが出入りできるスーパーニンジャフィールド内。
「なんだお前、猫飼ってたのか。こんなところに連れてくるなよ」
「違うよ。彼女は野良猫さ。いつの間にか懐かれてしまってね」
「イケメンは猫にもモテるのかこの野郎。羨ましーぞ」
夢野は微笑みながら跪いて、白猫の頭を恭しく撫でてやる。
「猫を盾にするなんざ卑怯じゃねーか? エジプト人に怒られるぞ」
「はは。そんな乱暴なことしないよ。それに」
「ニャー」
『II-TIME! Underdog!』
可愛い可愛い白猫が、一瞬でむちむちふわふわの白虎怪人に変忍する。わあもふもふだ。
「彼女も立派な生存競争者さ」
白虎怪人は夢野を守るように一歩前に立ちふさがった。
「はは。そいつは参ったな。人間は斬れても猫を斬るのはちょっと無理だ。ちなみに犬も不可」
俺たちの脳と融合していた忍者刀が共鳴し、それぞれの頭から勢いよく飛び出した。空中に浮かんだ12本の忍者刀が、高速回転しながら虹色の光輪を描く。
『Inferno!』
『Underdog!』
『boIIIber!』
『dIVa!』
『Voltage!』
『VIper!』
『VITal』
『VULcan!』
『cIXlone!』
『jaXTheripper!』
『XUeen!』
やがて虹色の光輪の中心がワームホールのように空間に穴を穿ち、その向こうからおぞましい雄叫びが響いた。何か来る!
「どういう理屈?」
「僕はそもそも生きていない。生きていない者は死にもしない。君は一度死んだ。一度死んだ者は二度死なない。この場で真に生者と呼べるのは、彼女だけなのさ」
「フシャー!」
白虎怪人も敵の気配を察知したのだろう。全身の毛を逆立てながら虹色の光輪に向かって牙を剥き威嚇する。
「お前って本当に何者なの?」
「それは後で話そうか。今は目の前の敵を片付けないと」
空間にポッカリ空いた穴から這い出してきたのは、いかにも宇宙人宇宙人した銀色メタリックな蜘蛛型エイリアンだった。
虫が苦手な俺からすれば悶絶もんだが、辛うじて体の表面が金属めいたメタリック質感なのと、アラクネのように下半身が蜘蛛、上半身が忍者という不思議な姿だから耐えられた。
そうでなければ悲鳴を上げて気絶していたと思う。
「ワーハハハハ! 愚かなる人間どもよ! まんまと騙されおったな!」
「初手倒していい奴カミングアウトどーも」
「やるべきことは欲望の悪鬼ゴルディオニと同じだね。みんなで力を合わせてあれを倒そう」
「オーケー。シンプルわかりやすくていい」
『X-TIME! t-reX!』
『IX-TIME! cIXlone!』
『II-TIME! Underdog!』
「「変忍!」」
「ニャー!」
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! ティラノ・デ・ゴザール!』
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! アラシ・デ・ゴザール!』
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! マケイヌ・デ・ゴザール!』
黒いスーツに青緑の装甲。風をまとった風車の仮面のニンジャッカー。
黒いスーツに紫の装甲。赤紫の炎をまとったティラノサウルスの化石型の仮面のニンジャッカー。
黒いスーツに黄金の装甲。猫なのに犬の仮面のニンジャッカー。
「ニンジャッカー竜星! 推して参らせてもらうぜ!」
「ニンジャッカー風星。頑張ろうか。一緒に」
「フシャー!」




