第41話 バイバイIV
「あ? れ? おかしいな……なん……で?」
「イデア先輩!? う、うわあああああ!?」
「ははははは! ははははははは! あーははは!」
甲シエンが絶叫する。無理もない。目の前で優しいお姉さんがバラバラに分割されてしまったのだから。下手したらどころか間違いなく一生もんのトラウマだろう。
どうやら以前にも使われたことがあったが奴の必殺技は11発の斬撃を飛ばして対象を解体する能力らしい。
ドオン! と青白い炎に焼かれ、ジャック・ヲー・ニンジャの主人公である心田イデアが一度も変忍ポーズを披露することもないまま敗退する。まさかのここで退場とは思わなかったぞ。
「お前!? なんで!?」
「なんで、だと? こいつの! こいつのせいだよ! こいつのせいで俺の人生は狂わされたんだよお!」
奴は銀の忍者刀を奪い、心田イデアが遺した遺灰の山を勢いよく蹴り上げた。そのまま怒り心頭、地団太を踏むように遺灰の山を踏み躙る。
「何がウルトラ平和同盟だ! 何が全員で生き返るだ! 生き返ったところで俺の人生はもうおしまいなのに! 返せよ! 俺の人生を返せ!」
『フィーバータァーイム! ジャーックザリッパァー! 忍法バラバラブラッディローズ! の術! イエー!』
「よくもイデア先輩を! 絶対許さないッス!」
『VIII-TIME! VULcan!』
「変n」
「遅い!」
モタモタと慣れない手付きでスーパーニンジャソードを呼び出し変忍しようとする甲シエンをサックリ斬殺するジャック。こいつ、手慣れてやがる。
「さっさと死ねよバカガキども! 俺はこの力を使って一生このスーパーニンジャフィールド内で生きていくんだ! 警察なんかに捕まるもんか!」
「おいおい、なんてひでーことしやがる。人の心案件だぞてめー」
「安心しろ。次はお前たちだ。すぐにこいつらと同じ地獄に送ってやるよ!」
英国紳士の風上にも置けない冷酷野郎はふたりの子供から奪ったIVとVIIIのスーパーサムライソードを右耳と左耳にあたる部分から同時に頭に突き刺す。
「力が! 力がみなぎってきたぜえ! もう誰も俺を止められねえ! お前らも警察の奴らも全員皆殺しにしてやるよお!」
早くも2本の忍者刀を奪われてしまい、大ピンチすぎる。と思いきや。
「はははは! はははははは! あーっはっはっはっは! ゲホォ!?」
3本の忍者刀を得て御満悦のジャックザリッパー野郎が、唐突に膝から崩れ落ちる。血反吐を吐いても仮面を付けていると見えないのな。見たくもねーけど。
肉体の痙攣、麻痺、呼吸困難による窒息。焼けるように痛む肺と喉。眼球も濁り、恐らく濁った視界を赤く染める血の涙を流しているに違いない。
『フィーバータァーイム! ヴァイパァー! 忍法ヒレツキワマリナキドクギリサッポー! の術! イエー!』
「ポイズンカウント・ゼロ。ゲームオーバーだ」
VIperのスーパーニンジャソードは蛇毒を操る。致死性の猛毒から神経毒まで、どんな毒でも蛇の毒である限り自由自在。
そしてそんな危険な蛇毒を含ませた毒霧を広範囲に散布できる。あの変態野郎を思い出せば、自身を中心とするかなりの広範囲をドーム状の毒霧空間に変えることができていた。
最初は違和感にも気付けない程わずかな微量から、どんどんどんどん空気中に占められる毒素の濃度を上げていく。
そして異変に気付いた時には既に手遅れ。あれ? 変だな? おかしいな? そう気付いた時にはもう死んでいる。
「あがががが!?」
変忍を維持できるだけの力もなくなったのだろう。ジャックザリッパー野郎がニンジャッカーから人間体に戻る。口から泡を噴き、血の涙を流し、息を引き取る。
その苦悶に歪んだ死に顔には新聞で見覚えがあった。
『女子高生轢き逃げ。トラック運転手の男を逮捕。撥ね飛ばされた女子高生まさかの無傷。頑丈さの謎に迫る』
『女子高生轢き逃げ。トラック運転手の男を逮捕も自殺未遂。警察病院から逃走』
心田イデアの死因を覚えているだろうか。彼女は空から降る綺麗な流れ星……宇宙から飛来したスーパーニンジャソードの輝きに見惚れながら走っていたせいで、大型トラックに撥ねられて死んでしまった。
そう、彼は心田イデアを撥ねた大型トラックの運転手だったのだ。いきなり赤信号を無視して道路に飛び出してきた女子高生を轢いちゃったせいで、人生が終わってしまったとても気の毒な人物。
人身事故を起こせば人生が終わる。或いは終わったも同然になる。大パニックに陥った彼は悲鳴を上げながら逃げ出してしまったのだろう。だが轢き逃げはただの交通事故よりもはるかに罪が重くなる。
彼は警察に逮捕され、そのまま取り調べを受け。そして警官たちの隙を突いて、留置所内で自殺しようとしたのだ。新聞には自殺未遂とあったが、恐らく自殺に成功したのだろう。
自殺した彼はスーパーニンジャソードの力で蘇り、わけもわからぬまま逃走。
だが、どこにも逃げる場所などなかった。彼の顔写真と実名は日本中に指名手配されている。生き返っても、社会的には死んだも同然。だから彼は、スーパーニンジャフィールド内に引きこもっていたに違いない。
『なんで、だと? こいつの! こいつのせいだよ! こいつのせいで俺の人生は狂わされたんだよお!』
『何がウルトラ平和同盟だ! 何が全員で生き返るだ! 生き返ったところで俺の人生はもうおしまいなのに! 返せよ! 俺の人生を返せ!』
可哀想に。トラック運転手にだって人生があるのだ。転生トラック~なんてお約束のように気軽に使われたのと同じ分だけ、星の数程のトラック運転手の人生に消えない傷痕が残ってしまった。
そんな状況で彼の人生が終わってしまった元凶が目の前にノコノコ現れたら、そりゃあ恨みもするだろう。
「竜崎ディノくん。君、あのふたりを助けられたのにわざと助けなかったね?」
「お互い様だろ。そこまで言うならお前が助けてやりゃあよかったじゃねーか」
いいからさっさと忍者刀を回収……いや、待て。おかしいぞ? なんでこいつの死体が灰に変わらないんだ?
『VII-TIME! VITal!』
「な!?」
トラック運転手の亡骸が内側から破裂し、白いブヨブヨした脂肪の塊のような、おぞましい異形の肉塊へと変貌する。奴の死体から飛び出してきたのは乳白色の忍者刀。
御丁寧に電子音声が7番だと教えてくれた。まさか2本目の忍者刀を隠し持っていたとは! 好都合だが嬉しくない!
「契約者が死ぬことで初めて発動するタイプの能力とか、そんなんありかよ!?」
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
II-TIME ?
III-TIME boIIIber 黒 爆弾 厚木サチヨ/ニンジャッカー爆星 刺殺
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
V-TIME Voltage 黄色 雷 上石神井アゲハ/ニンジャッカー電星 感電死
VI-TIME VIper 緑 毒蛇 近藤ムネヒコ/ニンジャッカー毒星 腹上死
VII-TIME VITal 乳白色 ?
VIII-TIME VULcan 赤 火山 甲シエン/ニンジャッカー溶星 熱中症
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?
XI-TIME jaXTheripper 灰色 切り裂き魔 ?
XII-TIME XUEEN 藍色 氷の女王 ルリエ・F・森/ニンジャッカー凍星 服毒自殺




