第40話 釣るんXI
『女子高生轢き逃げ。トラック運転手の男を逮捕。撥ね飛ばされた女子高生まさかの無傷。頑丈さの謎に迫る』
『刑務所の建物火災に乗じて死刑囚・円城フレアの遺体盗まれる。問われる管理責任』
『亡月女子高等学校で白昼の落雷事故。直撃を受けた教員生徒計5名が死亡』
『姉妹喧嘩か? 口論の末専業主婦刺される。被害者は亡月市内に住む厚木サチヨさん48歳。現在逃走中の笛吹サチコ容疑者49歳を殺人未遂容疑で全国指名手配』
『熱中症中学生球児、搬送先の病院で心肺停止。問われる学校側の監督責任』
『児童虐待で母親と交際相手の男逮捕。児童意識不明の重態も一命を取り留める』
スーパーニンジャソードは死者の脳に寄生して宿主を蘇らせる。つまり、契約者探しをするならその手の事件や事故のニュースを探すのが一番手っ取り早い。
まだ資源ゴミの日が来ていなくてよかった、と思いながら過去数日分の谷欠ローカル新聞と亡月ローカル新聞のバックナンバーを熱心に読み漁りそれっぽい記事を探す。
大事なのは死亡者を探さないことだ。契約者は蘇った死者。つまり、本当にそのまま死んでしまっただけの人物は対象外。
奇跡的に一命を取り留めたとか、奇跡の生還とか、死体が消えたとか、本来死んでいたはずの人間が、という状態を探す。
或いは忍者刀の力で引き起こされたと思しき謎の超常現象を。
『女子高生轢き逃げ。トラック運転手の男を逮捕も自殺未遂。警察病院から逃走』
――
『拝啓。現在生き残っているII、VII、XIのスーパーニンジャソードの持ち主さんへ。私たちウルトラ平和同盟は、スーパーニンジャソード争奪戦をコロシアイではなく話し合いで解決することをここに宣言します。みんなで協力して、全員で生き返れる道を探しましょう。つきましては第1回話し合いの席を設けたいと思います。もし対話に応じて頂けるのであれば、来週日曜日の正午に亡月プレシャスタワーの前でお待ちしております。なお日曜日の正午はちょっと都合が悪くて行きたいんだけど無理、という場合は、以下に記載するSNSのウルトラ平和同盟公式アカウントにメッセージをお寄せください。 ニンジャッカー音星 ニンジャッカー白星 ニンジャッカー風星 正義の味方ダイナソーマンより』
そんな手書きの署名入りの招待状をスーパーニンジャフィールド内のあちこちにばら撒いた。コンビニでコピーしまくって、300枚は刷っただろうか。印刷代は全員の割り勘である。白黒コピーだからそんなに高くつかずに済んでよかった。
果たして何人が来るだろう。誰も来ないかもしれない。それでも、こちらから平和的に話し合いの場を設けたという事実は残る。差し伸べられた手を振り払ったのなら、後は自己責任だろう。
――
約束の日曜日。現在の時刻は11時50分。待ち合わせ場所である亡月プレシャスタワーの前にいるのは俺独りだけ。こちらが4人でたむろしていると警戒して来てくれないんじゃないかってことで、代表1名が待つことになった。
正直他3人の姿が見えない方が警戒されそうじゃね? とも思うのだが、同盟のリーダーである心田イデアの発案なのでおとなしく従っておく。
亡月プレシャスタワーは駅前に乱立するタワマンのせいで、展望台からの眺めが最悪なことで有名な街のシンボルだ。当初は729メートルで建築する予定だったそうだが予算不足でその1/3程の高さになってしまった。
お陰で非常にこじんまりとしている。ムナ原人くんにちなんでどうしても675メートルの高さじゃないとヤダ! と町一丸となってクラウドファンディングを敢行し、すべてを解決した谷欠ダイナマイトタワーを見習え。
『XI-TIME! jaXTheripper!』
「よう。お出ましかい切り裂きジャックさんよ。まさかあんたが来てくれるとは予想外だったぜ」
「……」
わざと芝居がかった口調でダイナソーマンを演じる俺。夢野メシヤを見習って、底知れない不気味さを演出するんだ。
奴は警戒しながら俺と対峙する。こちらに交戦の意思はないことを示すために、両手を挙げてホールドアップ。
「招待に応じてくれて感謝するぜ。実は現状あんた以外のほぼ全員が、今後のことを平和的に話し合いで解決する方向で話がまとまったんだ。一応、あんたにも伝えておいた方がフェアだと思ってな」
「……それを、信じろとでも?」
「信じる信じないはあんたの勝手だ。だがこっちは大所帯だからな。それでも敵対するつもりなら相応の覚悟をしておいた方がいい。4対1はさすがに辛いだろ?」
無言。シルクハット型の仮面の下で奴は何を思うのか。
「ジャックザリッパーの忍者刀があるってことは、怪盗や名探偵の忍者刀もあるのかね?」
「御託はいい。お前たちは本当にコロシアイを降りるつもりか?」
「少なくとも、あいつらはそう考えてるだろうな。俺も降りれるもんなら降りたいね。こんなふざけたデスゲーム」
「……」
返事はない。そのまま黙りこくってしまった奴とともに、正午になるのを待つ。他に現れる人物はいない。
「来てくれたのはあんただけ、か。それとも残るふたりはあんたがとっくに始末してたってオチカ? ま、いいだろ。それじゃあ、残りの3人のところへ案内するぜ」
「断る。どこへ連れていかれるかわかったもんじゃない。話し合いがしたいのなら、そいつらをここへ連れてこい」
「ま、そうなるわな。いいぜ。今呼び出すからちょいと待ってな」
四方八方をタワマンに囲まれているせいで眺めが最悪なことに定評のある展望台で待機していた3人を呼び出す。
スーパーニンジャフィールド内でもエレベータなどは普通に動くため、徒歩で昇り降りせずに済んでよかったな。
「本当に、話し合いで済むと思うか?」
「済めばいいね。やりたいことができるとは限らないが、やろうとする意志が大事だと俺は思うぜ。みんなで仲よくおてて繋いで生き返れたら、それが一番いいのは確かだ」
程なくして3人が現れた。一応今回は不意打ちで襲われる可能性や遠距離から狙撃される可能性を考慮してあらかじめ変忍しておけと忠告したのだが、『信用を得るためには顔を明かさないと!』と拒否られてしまった。
どこまでもおめでたいというか、生真面目というか。言ってることは間違ってないが、ただ正しければよいというわけでもあるまいに。律義にそれに付き合う甲シエンと夢野の野郎も大概だ。
「あなたが11番さんですね! 初めまして! 私はウルトラ平和同盟のリーダー、心田イデアといいます!」
「……!」
なんだ? 露骨に動揺したのを必死に隠そうと取り繕って平静を装おうとして失敗しているのが丸わかりすぎるんだが、まさかの知り合いだったりするのか?
「本日は話し合いに応じて頂き本当にありがとうございます! あなたもウルトラ平和同盟に入りませんか?」
「……ッ!」
「命懸けで殺し合うなんて絶対よくないと思うんです! 一緒にスーパーニンジャソードを配ってる悪い人に文句を言いに行きましょう!」
「……くく! くははははは! あーはははははは!」
心田イデアの御立派な演説に心を打たれたのか、或いは。切り裂き魔なのか忍者なのか、或いはその両方を併せ持つキリサキ・ニンジャなのか。奴が腹を抱えて笑い出すものだから、面食らってしまう。
「命懸けの宇宙デスゲームになると覚悟していたのだがね。まさかこんな結末を迎えることになるとは拍子抜けだよ」
「デスゲームなんて断固お断りです! 命はひとつしかない大事なものなんですから!」
「いいだろう。私は……ジャックとでも名乗ろうか。私もぜひ、君たちウルトラ平和同盟の仲間に入れてほしい」
「本当ですか!? 話のわかるいい人でよかったあ! これからよろしくお願いしますね! ジャックさん!」
「ああ、よろしく」
変忍こそ解除しないものの、武器をおさめたジャックの手を両手で握り締め、満面の笑顔でブンブン握手する心田イデア。
「だから言ったじゃないダイナソーマン! 警戒なんて必要ない、真心込めて話せばきっとわかってもらえるって」
て、と最後まで言い終える前に、得意げな笑顔でこちらに振り返った心田イデアの額からグサリと忍者刀の刃先が突き出した。後頭部から額に貫通する一撃。
さすがは伝説の切り裂き魔の名を冠するスーパーニンジャソードの契約者。やるもんだね。
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
II-TIME ?
III-TIME boIIIber 黒 爆弾 厚木サチヨ/ニンジャッカー爆星 刺殺
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
V-TIME Voltage 黄色 雷 上石神井アゲハ/ニンジャッカー電星 感電死
VI-TIME VIper 緑 毒蛇 近藤ムネヒコ/ニンジャッカー毒星 腹上死
VII-TIME ?
VIII-TIME VULcan 赤 火山 甲シエン/ニンジャッカー溶星 熱中症
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?
XI-TIME jaXTheripper 灰色 切り裂き魔 ?
XII-TIME XUEEN 藍色 氷の女王 ルリエ・F・森/ニンジャッカー凍星 服毒自殺




