第38話 ウルトラ平和同盟
ルリエ・フランボワーズ・森失踪事件はちょっとしたニュースになった。世界一安全な空港と言われる日本の空港で起きた、外国人女性行方不明事件。
令和の神隠しなどと呼ばれ、海外でもニュースになったらしい。
彼女の姿が最後に目撃されたのは空港の女子トイレ。独りで女子トイレに向かっていく彼女の姿が空港の監視カメラの映像に残されており、女子トイレ内ですれ違ったという目撃者もいたのだが、それきり目撃証言は途絶えてしまった。
また件の女子トイレには内側から鍵がかかっていたものの、中身はもぬけの空になった個室がひとつあったこと、その扉の鍵から彼女の指紋が検出されたことから警察は彼女がなんらかのトラブルに巻き込まれたものと睨んで捜査を開始。
おそらく女子トイレからスーパーニンジャフィールドに移動したせいで、奇妙な密室だけが残ってしまったのだろう。
直前まで一緒にいたライタ兄貴とお袋は重要参考人として警察に事情聴取を受けたそうだ。母に至っては一緒に飛行機で来日したこともあり、かなり根掘り葉掘り取り調べられて露骨に機嫌を損ねたとか。
あちらの御両親からは一体どうなっているんだ! とお袋への電話が頻発しているらしく、婚約どころの騒ぎでなくなってしまった。
やがて警察の捜査が進むにつれルリエ・フランボワーズ・森のSNSアカウントに残された過去の人種差別発言が大量に発掘され、彼女が大の反日家であることが判明すると世間の風向きは一気に変わった。
『日本人と結婚するぐらいなら死んだ方がマシ』
『日本に住むぐらいなら死を選ぶわ』
来日前にしていた彼女自身の書き込みや親しい友人たちからの証言が決め手となり、行方不明事件の真相は拉致や誘拐などではなく自発的な失踪の線が濃厚に。
数多の人種差別的書き込みが衆目にさらされSNSで炎上した結果、日本人と結婚するのが嫌すぎて勝手にいなくなったのだから放っておけばいい、と言い出す者も少なくなかった。
可哀想なのはライタ兄貴だ。婚約者、それも外国人女性が行方不明になったことで、兄貴は連日マスメディアの対応に追われ、大学にまで押しかけられて大変迷惑しているらしい。
「彼女が一日も早く無事に見付かることを祈っています」
とはいえ兄貴も竜崎製菓を継ぐべく幼い頃から親父に教育された身だ。警察やマスメディア相手の対応はそつなくこなし、失踪した婚約者の身を案じる可哀想な婚約者のスタンスを崩さない。
世間では兄貴とお袋が共謀してルリエ・フランボワーズ・森を殺害したんじゃないかとか、どこかに監禁しているのではなど、面白おかしく無責任な噂を流して盛り上がったりしている奴もいる。
竜崎製菓の株価にもそれなりの影響が出たらしく、会社のイメージダウンを受けていい迷惑だ、とお袋がぼやいているのをざまあと思いながら俺は終始知らん顔をしていた。
「竜崎ディノくんだよね? ちょっとインタビューいい?」
「お兄さんの婚約者についてどう思う?」
「お兄さんの部屋に漫画やアニメのブルーレイはある?」
当然、兄貴の弟である俺のとこにも取材が来たわけだが、雷を操るVoltageの忍者刀を持つ雷電人間の俺に無許可でカメラやマイクを向けるとはいい度胸だ。
俺を撮影した機材は猛烈な磁気嵐にさらされすべて破損している。録画データや録音データが吹き飛んでパァになったためか、俺の姿や声がテレビに映ることはなかった。
『熱中症中学生球児、搬送先の病院で心肺停止。問われる学校側の監督責任』
『谷欠ダイナマイトタワー展望台名物・ムナ原人くん等身大ブロンズ像に乳液と化粧水ぶっかける。犯人の男性を逮捕』
『児童虐待で母親と交際相手の男逮捕。児童意識不明の重態も一命を取り留める』
『葬儀会場で被害者女性集団涙の激白!? 大物政治家の黒い闇』
とはいえ事件事故なんて圧倒的な情報の波に押し流されてしまうデジタル社会。2、3日もすれば芸能人の不祥事だの訃報だのといった別の話題がどんどん飛び出してくる。
いつの間にかルリエ・フランボワーズ・森の名前は世間から忘れ去られてしまい、5日も経つ頃にはもうみんな別のセンセーショナルな話題に飛び付いていた。AH無情。
「やあ、竜崎ディノくん」
「なんだよ夢野。なんか用か?」
マスメディアも来なくなったので心置きなく木野珈琲店に赴き夕刊を読みながらウインナコーヒーとツナとキュウリのサンドイッチに舌鼓を打っていると、夢野が現れた。
飯が不味くなるから食い終わった後に出直してきて頂きたい。
「実は折り入って君に紹介したい子がいるんだ。いや逆かな? 君を紹介してほしいと頼まれてね」
「お前はまた勝手に。プロフェサー・Gの件忘れてねーかんな?」
案の定飯が不味くなる話題を持ち込んできやがった。そうやって嫌がらせばっかしてっとしまいにゃ絶交するぞ?
「フフ。口ではそう言いつつも、君は優しい子だからね」
「そいつはどこの誰なんだよ。俺を呼び出して待ち伏せして集団で袋叩きにしようって魂胆か?」
「まさか。疑う気持ちはわからなくないけれど、あの子たちに君への敵意や悪意はないよ」
「あの子たち、ねえ?」
夕刊を折りたたみ、俺は奴をジト目で睨む。
「そいつらを店に連れてこなかった点だけは褒めてやろう」
「君の地雷を踏んだら恐ろしいからね。どうする? 会ってあげるかい?」
「上等だよ。みんなまとめて返り討ちにしてやんよ」
会計を済ませ、店を出る。
「おい坊主。お前さんまさか喧嘩しに行くつもりじゃねえだろうな?」
「まさか。友達の友達と遊びに行くだけだよ。なんの遊びをするかは知らんけど」
「そこは僕が保証するよマスター。心配せずとも大丈夫」
「あんま兄貴に心配かけるもんじゃねえぞ」
心配そうな木野の爺さんにヒラヒラと手を振って、俺と夢野は店を出る。兄弟で通い詰めてるうちに、木野の爺さんにまで兄貴の心配性がうつったかな?
「それじゃあ、行こうか」
「ああ」
『IX-TIME! cIXlone!』
『X-TIME! t-reX!』
「「変忍!」」
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! アラシ・デ・ゴザール!』
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! ティラノ・デ・ゴザール!』
ニンジャッカーに変忍し、スーパーニンジャフィールド内に侵入する。仮初の生者から死者へ戻り、裏望月市から裏亡月市へと移動。
亡月駅前公園は駅前に乱立するタワマンに囲まれた、狭くて窮屈な公園だ。
「久しぶり! ダイナソーマン!」
人前でその名を呼ぶな! と言いたいが、そう名乗ったのは俺なので文句も言えない。夢野が苦笑しているのもムカつく。一発かましてやろうかこの野郎。
待ち人とは心田イデアだった。それと、中坊らしき少年がひとり。どちらも変忍はしていない。あまりにも油断しすぎでは?
「自己紹介がまだだったよね? 私は心田イデア。こっちが甲シエンくん!」
「甲シエンッス。亡月第3中学の野球部でエースやってるッス!」
どういう組み合わせだよ。なんて訊くまでもないか。ここにいる時点でこいつらもニンジャッカーなんだから。
「私たち、ウルトラ平和同盟を結んだんです!」
「おめーらふたりで?」
「いや、僕もだよ。メンバーは3人だね」
心田イデアの隣に並び立つ夢野。いやニンジャッカー風星。学生だけの平和同盟ね。そいつはなんとも、アッサリ壊滅しそうなフラグの臭いがプンプン漂うこって。
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
III-TIME boIIIber 黒 爆弾 厚木サチヨ/ニンジャッカー爆星 刺殺
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
V-TIME Voltage 黄色 雷 上石神井アゲハ/ニンジャッカー電星 感電死
VI-TIME VIper 緑 毒蛇 近藤ムネヒコ/ニンジャッカー毒星 腹上死
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?
XI-TIME jaXTheripper 灰色 切り裂き魔 ?
XII-TIME XUEEN 藍色 氷の女王 ルリエ・F・森/ニンジャッカー凍星 服毒自殺




