第36話 母なるM
早朝。久しぶりに帰国、いや訪日する母と日系外国人である婚約者を出迎えるため、ライタは成田空港を訪れていた。
"ルリエ・フランボワーズ・森よ。あなたがライタ・竜崎?"
"初めまして。竜崎ライタと申します"
竜崎ライタはトリリンガルである。日本語と英語の他にもうひとつ話せる。現在はドイツ語も勉強中だ。
日本を代表する大手お菓子メーカーの次期代表として、海外の洋菓子産業の重鎮たちと親交の深い竜崎家の跡取りとして、幼い頃から教育を受けてきた成果だ。
チョコレートの本場はやはり欧州である。ディノとライタの父である竜崎イオタは、一年の大半をそんな欧州で過ごしている。たまにアメリカや南米にも飛ぶ。
"久しぶりねライタ。あの出来損ないは?"
"お帰り母さん。ディノなら逃げたよ"
"そう。その方がいいわ。一族の汚点を結婚前の花嫁に会わせるわけにはいかないもの"
母であるスカーレット・竜崎は金髪の外国人である。日本や日本人に対し露骨に差別的な彼女は一年のほとんどを母国で暮らしているため日本には滅多に寄り付かない。
なんと彼女は日本語を一切覚えておらず、子供のベビーシッターや教育も家政婦に任せきりで、ライタにさえ母乳をあげたことは一度もないという。
ライタは父親譲りの黒髪だが、ディノは母親譲りの金髪をしている。生まれ付き金髪、という彼の言葉は実は本当なのだ。
何故日本人である父と結婚したのか本当に理解に苦しむ、とライタは幼い頃から不思議であった。
"相変わらずねこの国は。早く祖国に帰りたいわ"
また始まった、とライタは愛想笑いの裏でため息を吐く。彼は母があまり好きではなかった。日本語を一切覚えようとはせずこちらが外国語で話しかけなければ無視された幼少時代。
ふたりも子供を作っておいてろくに育児もしないまま海外在住なのもいかがなものかと思うし、夫婦揃って子供の世話は家政婦任せ。その癖無駄に教育熱心なのだからタチが悪い。
多額の養育費だけは振り込んでいるものの、正直親としてはどちらも失格である。電話さえ年に数回しかなく、酷い時には2、3年顔を合わせないなんてこともザラ。
育児放棄されたも同然の境遇で育ってきたからこそ、竜崎兄弟の絆は強い。
そんな大事な弟を"出来損ない"だの"一族の汚点"と呼び軽蔑している点もマイナスポイント……と言いたいところだが、悲しいかなそこは否定できない。
死ぬまでニートがいい、一生働きたくない、仕事するぐらいなら死ぬ、と胸を張って堂々と公言しているディノの人格には、確かに問題がある。
だが、育児放棄をしてきた愛情のない親が子供の育ち方についてとやかく文句を言う筋合いはなかろうとも思う。
"失礼。わたくしお手洗いに"
"あちらです。ご案内しましょうか?"
"結構"
そんな母のお眼鏡に適った女性が、まともであるはずがなかった。アジア人への露骨な差別意識が滲み出る、高慢で高飛車そうな性格のキツイ外国人女性。
あれと結婚しなければならないのかと思うと気が滅入る。とはいえ今親に逆らえば大学を中退させられるかもしれない。
金の力は強い。社長令息として学業と若社長業を兼任している彼だからこそ、よりそれが強く感じられる。悲しいかな人間は、金の力には勝てないことがほとんどである。
"父さんは元気?"
"ええ。相変わらず子供みたいにチョコレートに夢中よ。今は一流の職人を口説き落とすべくベルギーにいるわ。あの調子じゃあ承諾されるまで帰らないでしょうね"
"そうなんだ。ディノもベルギーのチョコレートが大好きだから、父さんに頼んでいいのを送ってもらおうかな"
"バカ言わないで頂戴。あれに味の違いがわかるはずがないでしょ"
"それはどうかな。チョコレートやクッキーに関しては、ディノは間違いなく父さんの息子だと思うよ"
"私にはなんの関係もないことだわ。ライタ。何度も言うけれど私の前であてつけがましくあれの話をしないで頂戴。不愉快だから。ルリエの前でもあれの話は絶対にしないように。いいわね"
「OK。相変わらず最低の母親だなおい」
"イオタもいつになったらあれを処分するつもりなのかしら。あんな子供、産むんじゃなかったわ。あれと血がつながっていると考えるだけでもおぞましいのに"
成田空港は休日の早朝なのもあり混雑していた。外国人観光客が大勢訪れ大賑わいだ。
"彼女とはどこで知り合ったの?"
"イオタと親交のある三ツ星ホテルの料理長の娘。彼女も腕のいいパティシエールよ。彼女の作ったタルトを私が気に入ったの"
"そうなんだ。それは期待できそうだね"
だがルリエが夫にその腕を披露することはなかった。トイレに行ったきり忽然と行方不明になってしまったからだ。
あまりにも帰りが遅いため、不審に思ったスカーレットが女子トイレに向かったのだが彼女は忽然と姿を消してしまった。
スマホも圏外なのか電源オフなのかつながらず、空港職員に呼び出しを頼むもそのまま2時間が経過。
さすがにおかしいと空港警察に連絡した結果、彼女が行方不明になっていることが判明。
"まさか、何かの事件に巻き込まれてんじゃ?"
"バカ言わないで頂戴。誘拐事件だとでも? 彼女は成人女性なのよ?"
"だとしても、万が一の可能性があるだろう?"
"日本人は空港の職員も警察官も無能揃いなのね。本当に嫌になるわ。早く私の前にルリエを連れてくるよう言いなさいな"
ルリエ・フランボワーズ・森、突然の失踪。彼女の身に一体何が起きたのか? 気になる続きはCMの後で。
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