第34話 VI死すべし
「嫌あああ! 誰か助けてえええ!」
「ワハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞスーパーニンジャソード! まさに天からの授かりものだな!」
近藤ムネヒコ。亡月市を牛耳る悪徳政治家である。剣ソウヤに粛清されるはずだった谷欠市の政治家といいこの世界には悪徳政治家しかいないのだろうか。
彼の趣味はいわゆるパ〇活であり、若い女学生に手を出してはその権力で揉み消している。
そんな近藤が死んだのはつい最近。表向きは自宅で心臓麻痺を起こし亡くなったとあるが、実際には某秘密厳守の料亭に女学生を連れ込んで淫行に及んでいるところを心臓麻痺で死んだ。
無論その事実は闇に葬られ、彼は立派な政治家として手厚く葬られることになったのだが。
そんな彼が『VIper』のスーパーニンジャソードに選ばれ蘇ってしまったのは、街にとっても不幸だったに違いない。
「さあ逃げろ逃げろ! 早くしないと追い付かれてしまうぞお!」
「きゃあああああ!?」
生前、近藤ムネヒコにはひとつ大きな不満があった。それは、喜んでパ〇活をするような金銭目当ての汚れた女では満足できなかったことだ。
本当はパ〇活なんて絶対やらないような、清楚で可憐な女学生に乱暴してみたかった。だが、さすがにそれは揉み消し難い。
合意の上でなんてつまらないと考えていた彼の欲望が、自身の死をきっかけに解放されてしまった。
『どうせ死ぬのなら最期ぐらいはもっといい娘を選ぶべきだった!』
死ぬ間際になってさえそう後悔した筋金入りのクソ野郎である彼は、スーパーニンジャフィールドを我欲を満たすために悪用することに躊躇いがなかった。
スーパーニンジャフィールドはニンジャッカーでなければ出入りできない特殊な閉鎖領域だが、ひとつ抜け穴がある。
それは、ニンジャッカーが触れた状態でならニンジャッカーでない人間もフィールド内に連れ込めるというルールだ。
手をつなぐ、抱き上げる、担ぐ。方法はいくつもあるが、とにかくニンジャッカーと一緒なら一般人でもスーパーニンジャフィールド内に出入りできる。
逆に言えば、自力だけではどうあがいても入ることも出ることもできないってこと。
悪意をもって連れ込まれたが最後。被害者は出口のない迷宮を死ぬまで延々彷徨い続ける羽目になる。
もちろん死んだとしても、その死体は現実世界には戻らない。一生この特殊な閉鎖領域内に放置される。
警察も誰も来れない絶対安全圏。しかも最高の死体処理場。毒蛇怪人は高笑いしながら、怯え逃げ惑う獲物をわざとゆっくり徒歩で追い詰める。
「ワハハハハ! 実にいい気分だ! 最高だな! さてはここが天国か!」
「いや、地獄だぜ」
「誰だ!?」
心田イデアには川井ソニアという親友がいる。川井ソニアは作中で毒蛇怪人の毒牙にかかって死んでしまう。二重の意味で。
蛇毒で麻痺させた人間を丸呑みにした状態でスーパーニンジャフィールド内に連れ込み、血清を与えてから解放する。そうなれば後はもう奴のお楽しみタイムだ。
逃げ惑う女学生を執拗に追いかけ回し、いたぶりながら狩り立てる。そんなゲスで下劣な欲望の標的に選ばれてしまった親友の変わり果てた変死体に、心田イデアはスーパーニンジャフィールド内で遭遇してしまうのである。
『ソニアちゃん!? 嫌! 嫌ああああああ!』
殺された親友の敵討ちのため、巻き込まれただけの一般人だった彼女は初めて自らの意思で敵を倒す。
『私、これからも戦うよ! 二度とこんな悲しい犠牲者を出さないために!』
それこそが2巻のクライマックスであり、敵討ちを済ませた彼女が決意を新たに『VI』のスーパーニンジャソードを握り締める場面で連載は打ち切られてしまった。
そのため近藤ムネヒコこと毒蛇怪人は、事実上のラスボスだったとも言える。
「悪党に名乗る名前はない」
『フィーバータァーイム! ティー・レェーックス! ボンバァー! 忍法カマレタトコロガバクハツスルゾ! の術! イエー!』
「どこのどいつか知らんがワシの邪魔をするな! 生意気な偽善者のガキめ!」
『フィーバータァーイム! ヴァイパァー! 忍法ヒレツキワマリナキドクギリサッポー! の術! イエー!』
「爆裂ファング!」
「ポイズンストーム!」
毒蛇怪人の噴き出した猛毒の毒霧ブレス攻撃を、大爆発が消し飛ばす。致死量の猛毒を爆炎と爆風で切り裂きながら、ティラノサウルスの化石型のオーラをまとった俺の斬撃が奴の脳天をカチ割った。
「バカな!? スーパーニンジャフィールド内にはワシが放った、獲物を徐々に衰弱させる神経性の麻痺毒霧が充満していたはず!? 何故貴様は動けるのだ!?」
「悪いなクソジジイ。俺はティラノサウルスだからよ。毒が回る速度が人間よりもはるかに遅いし、効きも悪いんだわ」
「そ、そんなバカなあああああ!?」
ドオン! と青白い炎に焼かれながら、醜い異形の毒蛇怪人の胴体がドサリと遺灰の塊と化して崩れ落ちる。
「悪は滅びた」
『VI-TIME! VIper!』
毒々しい毒蛇男の見た目そのままに、緑の忍者刀を引き抜く。あとはこいつを頭に刺せば。
『XI-TIME! jaXTheripper!』
『フィーバータァーイム! ジャーックザリッパァー! 忍法バラバラブラッディローズ! の術! イエー!』
「――!」
その隙を突いて、敵の攻撃が俺を襲った。切り裂き魔の強烈な一撃。忍者刀から1秒間に11回飛ばされた斬撃が、俺の体をバラバラに切り裂く……はずだった。
『サムライバル! ∀rc!』
だが、その攻撃は忍智を超越した完全防御に弾かれる。フ。打ち切り漫画の攻撃がアニメ化漫画の防御に勝てると思うなよ! しかも漫画家が監修した劇場版の特別な力やぞ!
「ニンジャッカーが最も無防備になるであろう、忍者刀を脳に取り込む瞬間を狙う、ってのは正解。いい判断してるなあんた。でも、残念。弱点がわかってる以上、そこを一番警戒するに決まってるだろ?」
黒いスーツに灰色の装甲。そしてこれまでのニンジャッカーにはなかった特別な黒いマント。灰色のシルクハットめいた形状の仮面。
ジャックザリッパーの名を冠するだけあり、英国紳士めいた優雅な造形美だ。これが日の目を浴びることなくお蔵入りされたってマジ? 勿体ねー!
「――」
「暗殺向きの能力なら、そりゃあ必殺技名は叫べないよね。でも、忍者刀にミュート機能がないのは酷くない? 完全に営業妨害じゃん」
「――!」
わかる! その通りなのよ! と言わんばかりに一瞬だけ奴の雰囲気が変わる。だが即座に気を引き締め、俺から距離を取った。
暗殺特化の能力ならば、正面からぶつかるのは不利と判断したのかもしれない。躊躇いなく撤退を選び、空気に溶けるように消えてしまった。
「逃げたか」
と見せかけて、背後からの強烈な一撃! 足音もなく一瞬で俺の背後に回り込んでのスピーディな一撃だ。的確に奴の忍者刀が俺の後頭部に突き刺さ……らない!
「やるじゃないか。どうだ? 俺と組まないか? 俺が盾であんたが矛。最強のコンビになれるかもしれんぞ」
「――」
今度こそ、奴は撤退していった。透明化に気配遮断に足音を消す。いずれも厄介な能力揃いだ。
「あいつを負うべきか、川井ソニアの救助を優先すべきか。まあ、後者よな」
俺はスーパーニンジャフィールド内のどこかにいるであろう川井ソニアを探した。近藤ムネヒコの麻痺毒霧がスーパーニンジャフィールド内に充満していたせいで、そう遠くへは逃げられなかっただろう。
案の定彼女は道端に倒れていた。街路樹の根元で虫の息になっている。幸いにも毒蛇怪人の死で毒霧は解除されたものの、毒で衰弱した肉体そのものの疲労は即座に回復しなかったようだ。
「い……や……来ない……で!」
可哀想に。舌も回らないのだろう。そりゃあ恐いよな。いきなり気絶させられて見知らぬ不気味な空間に連れてこられて、周囲の通行人は彼女が見えないし声も聴こえないしぶつかってもすり抜けてしまうんだから。
そんな状況下でティラノサウルスの化石型の仮面をかぶった奴がいきなり現れた毒蛇怪人の仲間だと勘違いしてもおかしくはない。今の彼女には目に映るすべてが恐怖の対象であるに違いない。
「助け……誰……か!」
「忘れちまいな。これは全部悪い夢。覚めれば消えちまう、ただの悪夢だったんだよ」
「ソニアちゃあああああん!」
意識を失った彼女をスーパーニンジャフィールド内から出してやろうと抱き上げた瞬間、今度は心田イデアが駆け付けてきた。
『IV-TIME! dIVa!』
原作でも間に合わなかったように、どうやら今回も彼女は間に合わなかったらしい。大丈夫。俺が先に助けといたから。
でもなあ、今の俺はどう見ても完全に気絶させた女性を拉致しようとしている不審者にしか見えないんだよな。
参ったね、どう説明したものか。そもそもどう説明したって信じてもらえる気がしないのだが。
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
III-TIME boIIIber 黒 爆弾 厚木サチヨ/ニンジャッカー爆星 刺殺
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
V-TIME Voltage 黄色 雷 上石神井アゲハ/ニンジャッカー電星 感電死
VI-TIME VIper 緑 毒蛇 近藤ムネヒコ/ニンジャッカー毒星 腹上死
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?
XI-TIME jaXTheripper 灰色 切り裂き魔 ?
