第31話 アゲアゲV
「あははは! 痺れるね! 楽しいね! 快感だねえ!」
上石神井アゲハは今時の女子高生である。趣味はガールズバンド。黒髪を金髪に染め、くわえ煙草でエレキギターを爆音で掻き鳴らすのがロックだと勘違いしている不良少女。
そんな彼女は自宅の風呂場で感電死死した。バスタブに浸かってスマホを操作している時に、ウッカリバスタブの中にスマホを落としてしまっただ。
彼女がバカだったのは、もとい不幸だったのは、充電ケーブルをつないだままそれをしていたこと。
当然のように彼女は感電死死し、スーパーニンジャソードに選ばれ生ける屍として蘇ったのである。
コンセントに繋いだ電化製品を風呂場や洗面台、流し台の近くに持ち込むのは絶対にやめようね。危ないから。
「生き返った上に超能力者になれるなんて最高じゃん! 無敵の電撃ビリリでムカつく奴ら全員ぶっ殺してこ!」
ムカつく教師、ムカつく親、ムカつく同級生、ムカつく大人。彼女は調子に乗って、ムカつく奴らを片っ端からぶっ殺していった。
表向きは感電死死だが、実際にはアゲハがぶっ殺したのだ。
「つーか、能力いっぱいGETできた方が強くね?」
スーパーニンジャソード争奪戦。12本の忍者刀を集めた奴だけが最強になって生き返れる。それって超ラッキーじゃん! 宝くじなんかよりよっぽと嬉しい。
だって100億円あっても超能力者にはなれないじゃん? 超能力者になれば100億円とかあっという間に稼げるし。
だから彼女は率先して他のニンジャッカーを探し始めた。そして見付けたのだ。たまたま前を通りかかった夜の病院から、他のニンジャッカーの気配を。
ニンジャッカーは他のニンジャッカーの気配を感じ取れる。おまけに相手はごく普通のオバサンだった。しかも入院してるオバサン。
「チャーンス!」
そんなわけで、上石神井アゲハは意気揚々と病院に乗り込んでいった。真夜中の病院とか超ホラーだけどうちがまずオバケみたいなもんだし? オバケだって自慢の雷でイチコロだし!
「あはははは! 逃げても無駄だよオバサン! 潔く死んじゃいなよ!」
「嫌よ! 私には家族がいるんだから! 家族を遺して死ねないわ!」
「でもあんたはもう死んだんだよ! 死人がいつまでも未練がましく地縛霊になってたら、家族も悲しむって絶対! 潔く成仏しな! うちが手伝ってあげるからさあ!」
「きゃああああ!?」
それは簡単な狩りのはずだった。絶対勝てる。負ける要素ない。なのに、厚木サチヨは意外としぶとかった。逃げ回って、アゲハの電撃攻撃を爆発で相殺してくる。段々イライラしてきた。はよ死ねし!
『V-TIME! Voltage!』
『III-TIME! boIIImer!』
「うちは狩る側! テメーは狩られる側なんだよ! 早く死ねよ老害!」
怒りのままに、彼女の傷んだ金髪が怒髪天を衝く。彼女は顔だけはよかった。歌もエレキギターもド下手だった。でも顔だけはいいからバンドの仲間に入れてもらっていた。
そのバンドももうない。メンバー全員アゲハがぶっ殺しちゃったからだ。音楽性の違いって奴?
「なになに!? なんなのよもう!?」
「あはははは! わかる必要なんかないって! そのまま死んじゃいなよオバサン!」
「オバサンオバサンうるさいわね! さっきから人に向かって死んじゃえだなんて、あなた親にどういう教育受けてきたの!?」
「……は? うるさいなあ! いいからさっさと死ねよババア! いつまでも見苦しく逃げ回ってんじゃねーし!」
「冗談じゃないわよ! あんたの方こそ死になさいよ! この、人殺しい!」
『フィーバータァーイム! ヴォルテェージ! 忍法トキメキビリビリハートォ! の術! イエー!』
『フィーバータァーイム! ボンバァー! 忍法ダイナミックダイナマイトゥ! の術! イエー!』
降り注ぐ雷と、それを遮る爆発。雷撃と爆炎で病院がどれだけ崩壊しようとも、現実の人間にはなんの影響もない。
そんなのつまんないと、アゲハは頬を膨らませる。病院のセンセー、看護師、患者も全員、真っ黒焦げにしてやったらチョー面白いのに!
「もう嫌あ!」
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! バクダン・デ・ゴザール!』
「あはははは! 雷使い相手に屋上に逃げるなんてバッカじゃないのォ!? 死ねよバカババア!」
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! デンキ・デ・ゴザール!』
黒いスーツにオレンジ色の装甲、花火の仮面のニンジャッカーを、黒いスーツに黄色の装甲、雷マークの仮面のニンジャッカーが追い詰める。
いつしかふたりは感情の昂るがままに変忍していた。或いは、されていたのかも。
『フィーバータァーイム! ヴォルテェージ! 忍法トキメキビリビリハートォ! の術! イエー!』
「これで終わりだよ!」
「きゃあああああ!?」
月夜に渦巻く暗雲。夜空が雷雲で埋め尽くされ、すさまじい量の落雷が病院の屋上目掛けて降り注ぐ。避雷針などなんの意味もなさない。
ドオン! と何発もの雷が直撃し、病院の建物が崩落する。それは鼓膜を破り、網膜を焼き、跡形もなく何もかもを炭化させる恐ろしい一撃。
「パパ……助け……」
最期は旦那に助けを求めながら、変忍を解除された厚木サチヨは遺灰となってドサリと崩れ落ちた。
その遺灰の山に、黒い刀が突き刺さる。病院の屋上を覆っていた暗雲は晴れ、いつしか夜空には月が戻っていた。
「やりい! 2本目の刀、GETじゃん!」
ゲラゲラ笑いながら、意気揚々と刀に手を伸ばす上石神井アゲハ。
『フィーバータァーイム! ティー・レェーックス! イーンフェルノォーウ! 忍法クチノナカデコンガリヤキアゲテオイシクイタダイテヤルゼェ! の術! イエー!』
「ローストファング!」
夜空に赤紫の花火が炸裂した。赤紫の炎をまとったティラノサウルスの化石型のオーラが大口を開け、ニンジャッカー電星の頭部をガブリと食いちぎったのだ。
「ちょ!? 後ろから不意打ちなんて卑怯すぎね!?」
「そうだよ? 俺は生まれ付いての卑怯者なんだ。悪いね」
食いちぎられた頭部が抗議するも、ガブリ! とティラノサウルスの化石型のオーラが彼女の頭部を噛み砕く。
首を切断されても死なないが、脳か忍者刀を破壊されれば死ぬのがニンジャッカーだ。脳を破壊された彼女の遺された胴体が遺灰となって崩れ落ちる。
「誰かを襲うのなら、誰かに襲われる覚悟もしておくべきだったな」
『V-TIME! Voltage!』
『III-TIME! boIIImer!』
黒い忍者刀と黄色い忍者刀。二本のスーパーニンジャソードを手に取り、ニンジャッカー竜星が不敵に笑う。侍は正面から正々堂々勝負するものだが、忍者は相手の前に姿を現さずに暗躍するもの。
彼は2本の忍者刀を同時に右耳と左耳の部分から、自身の頭に突き刺した。
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! バクダン・デ・ゴザール!』
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! デンキ・デ・ゴザール!』
「成仏してクリオロフォサウルス。もしもまた願いが叶うのなら、その時は生き返らせてあげるからね」
それはあまりにもあんまりなはなむけの言葉だったが、ないよりはマシだろう。ない方がマシ? そこは個人の価値観だから。
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
III-TIME boIIIber 黒 爆弾 厚木サチヨ/ニンジャッカー爆星 刺殺
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
V-TIME Voltage 黄色 雷 上石神井アゲハ/ニンジャッカー電星 感電死
VI-TIME VIper ?
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?




