第27話 蛇足のEX
「なー兄貴。ほんとに俺も会社に顔出さないとダメ? 嫌なんだけど。俺、将来はニート以外になるつもりないんだけど。スーツなんか着たら肩こりが死因で死んじゃう死んじゃう」
「お前はまたそんなことばかり言って。いい加減親父とお袋に愛想尽かされて家から叩き出されるぞ?」
「あのふたりなら兄貴のことしか眼中にないじゃん。それにもし勘当されたとしても、優しい兄貴は俺のこと見捨てたりしないだろ? しないよな? しないよね?」
「まったくお前って奴は!」
兄貴が通勤・通学用に使っている黒塗りの高級車に揺られながら、スーツを着せられた俺は後部座席で不貞腐れていた。嫌だ、会社員なんか二度となるものか。社会人になるぐらいなら死んでやる!
「そもそもうちの会社ってどこにあるの? なんで自宅が谷欠市にあるのに会社は市外にあるわけ?」
「さあな。立地を選んだ理由は親父に訊け。そら、竜崎製菓の本社ビルが見えてきたぞ。あそこが千葉県谷欠市の隣にある亡月市だ」
「ごめん、なんて?」
ちょっと聞き捨てならない単語が聞こえて思わず顔を上げてしまった直後、空からものすごいスピードで何かが降ってきて、走行する車の窓ガラスをぶち破った。
「うわあ!?」
『X-TIME! t-reX!』
「マジかあ!?」
「ディノ!」
『ニンジャガ・ジャック! ニンジャッカー! ティラノ・デ・ゴザール!』
(つーか、電子音声の癖強!?)
まるでそれが運命であるかのように、『X』の刀は黒塗りの高級車の窓ガラスを突き破って車内に飛び込んできて、俺の頭に問答無用で突き刺さったのであった。この流れ前にもやったよなあ!?
スーパーニンジャソード。全部で12本ある宇宙から来た秘宝(のちに漫画家先生のSNSで13本目の忍者刀についてその存在がほのめかされたため本当は13本あるっぽいのはここだけの話)。
12本すべての忍者刀を集めた者だけが真に生き返る権利を得られるという。よくある話だ。
スーパーニンジャソードに死体をジャックされたニンジャッカーたちは、生き返りの権利を賭けて凄惨な忍者刀狩り争奪戦へと身を投じていく、或いは巻き込まれていく。
そんな設定の打ち切り漫画があった。
ジャック・ヲー・ニンジャ。サムライバー斬月の連載完結後に同じ作者が鳴り物入りで連載を始めたものの、全2巻で打ち切りを食らってしまった能力バトル漫画だ。
『IV』の忍者刀が空から降ってくるのに見惚れていたら、トラックに撥ねられ死んでしまった女子高生・心田イデアと『XI』の忍者刀を持つ謎のイケメン男子高校生・夢野メシヤ。
ふたりの運命的な出会いから始まるガールミーツボーイは週刊誌で全2巻に渡り連載され……って、夢野の野郎! ちゃっかり同じ作者の別漫画に続投してるじゃねーか! なんなんだよあいつはよお!?
夢野はさておき設定だけ聞いてもダメさがわかる。打ち切りもやむなしだろうね。
設定や展開がことごとくサムライバー斬月の二番煎じ。セルフオマージュ。或いは焼き直しにもならないパクリ、劣化コピー。
そんな低評価爆撃を食らってしまったのも無理もない。
「ディノ! 大丈夫かディノ!」
「おおお落ち着けライタ兄貴! 俺なら大丈夫だから!」
「大丈夫なわけないだろう! 頭に刀が突き刺さったんだぞ!? いや、刀はどこだ!?」
「刺さってない刺さってない! 刀なんか刺さったら死ぬだろ普通!」
「ほ、本当か!? それじゃああれはなんだったんだ? 俺が見た幻覚か?」
「疲れてるんだよ兄貴! 働きすぎだって! とにかく俺は生きてるから大丈夫!」
大嘘である。大パニックに陥った俺の心臓は止まっている。そう、宇宙から降ってきた忍者刀が頭に刺さって俺は死にました。
スーパーサムライソードが心臓を食らって融合するように、スーパーニンジャソードは契約者の脳を食らって融合する。
説明は省いても大丈夫だろう。なんせスーパーサムライソードとほとんど設定が同じだからな。
唯一違うのは、スーパーサムライソードが生者の心臓を乗っ取るのに対し、スーパーニンジャソードは死者の脳を乗っ取る。
何故宇宙で忍者なのかって? 知らないよ。忍者なんだから宇宙にいても別におかしくなくない?
(俺、死ぬつもりなかったんですけど!?)
ジャック・ヲー・ニンジャは打ち切り漫画である。12枚ある忍者刀の大半は劇中で未登場。
判明しているのは主人公が使う『IV-TIME dIVa』と夢野が使う『IX-TIME cIXlone』、それに死刑囚である円城フレアが使う『I-TIME Inferno』と2巻のボスが使う『VI-TIME VIper!』の4本だけ。
(円城フレアにInferno、それからt-reXって完全にネタの使い回しじゃねーか! 手抜きってレベルじゃねーぞおい! スターシステムってのはスターがやるからこそ歓迎されるんだからな!?)
つーか、なんでこの漫画の存在を忘れてた俺!
不思議なことに、俺はジャック・ヲー・ニンジャという漫画の存在を完全に失念していた。本当にたった今思い出したのだ。
まるで頭に忍者刀が突き刺さった衝撃で記憶の封印が解除されたかのように。俺の脳内にあふれ出すこの漫画の記憶。
まさか時限式で段階的に解除されていくんじゃあるまいな?
(打ち切りエンドってことは、そこから先の原作知識に頼れないってことじゃん!)
オーマイガ! そいつは話が違うんでないかい!? そもそも初手いきなり死ぬとか前作以上に酷くない!?
(ノオオオオ! todaYの刀! todaYの刀はどこ!?)
あいにく俺の心臓に残留しているのは完全防御能力を持つ∀の刀だけ。つーか完全防御の力なら頭に忍者刀が刺さるのを自動で防いでくれませんかねえ!?
ニンジャッカー図鑑
I-TIME Inferno 赤 煉獄 円城フレア/ニンジャッカー炎星 死刑
IV-TIME dIVa 銀色 歌姫 心田イデア/ニンジャッカー音星 轢き逃げ
VI-TIME VIper ?
IX-TIME cIXlone 青緑 嵐 夢野メシヤ/ニンジャッカー風星 ?
X-TIME t-reX 紫 恐竜 竜崎ディノ/ニンジャッカー竜星 隕石直撃?




