第26話 さらばX
転生先が現代日本だった。つまらん。と思いきや刀を持った能力者同士が決闘をする物騒な世界だった。だった。そう、過去形だ。
「おっはよー番長!」
「おう、おはようさんムサシロウ」
「ふたりともおはよう」
「おはようございますムサシロウくん、番長さん」
「おはよう天雅さん! 葉隠さんも!」
世界は無事修復された。あの戦いで犠牲になった人々は全員生き返り、いや、最初から死ななかったことになった。
あの戦いそのものがなかったことになったのだ。面識をなくした者もいれば、修復後の世界でも変わらず友達であり続ける者もいる。
「馬場警部。お電話です。奥様から」
「次のニュースです。死刑囚として収監されていた凶悪犯、円城フレアの死刑がつい先程執行され」
「初めましてえ! 笛吹サチコ、専業主婦志望でえっす!」
あの物騒な争奪戦が嘘だったみたいに、世界は平和になった。いや、嘘になったのだ。俺がそうした。
「爺さん、注文いいか」
「ああ、なんにする? ウインナーコーヒーか?」
「へ?」
「……いや、すまん。坊主の顔を見てたら、なんだかそう言われそうな気がしてな」
「よくわかったな爺さん! もしかして超能力者か? すげーな!」
「こらディノ。店内で騒ぐんじゃない。すみません、弟がお騒がせしてしまって」
「いや、構わん。子供は元気が一番だからな。あんたはどうする?」
「では紅茶をください。ホットのレモンで」
「兄貴、珈琲店で紅茶を頼むのはどうかと思うぜ」
「すみません、カプチーノのホットをひとつ。それから子供用のアイスココアをふたつ。テイクアウトで」
とはいえ世の中にはまだまだ未知なるオーパーツがあふれているようで、それを取り締まる木霊財団の仕事も終わりそうにない。
危険物がスーパーサムライソードのみなら木霊財団なんて組織が必要にはならないのである。
「ノゾム様。少しおやすみになられてはいかがでしょうか」
「何を言う。僕は忙し……いや、君の言う通りだ。少し休憩にするか」
「フフ。ではお茶にしましょうか。街で評判のスイーツを手土産に持参しましたの。ムナ原人くん印の練乳パイですって」
「僕は甘いものは苦手……いや、折角だから頂こうか。ありがとう、ヒカリさん」
結局夢野メシヤの正体が何者だったのかも謎のまま。でもいいんだ。謎は謎のままにしておいた方が、浪漫があるだろ?
「スーパーサムライソード。調べてみたがただの古美術品だった。確かに美術的価値は高いのだろうが。肩透かしにも程がある」
「はは。それは残念だったね博士。結構な大枚をはたいて落札したんだろう?」
「その通りだ。お陰でしばらくはカップ麺生活だな。次の浪漫を追い求めるためにも、生活費はできるだけ切り詰めねば」
そうそう、最終決戦で一切出番がなかった∀の刀。あれだけは未だに俺の心臓に融合したまま残っている。
本編後の時系列で語られる劇場版のための布石なので、あそこで消滅してしまっては整合性が破綻するが故の特別措置だろうか。
それとも最後の最後に思った、俺だけはいつまでも超能力者のままでいられればいいのにという願いが叶った結果だろうか。
いつかZeroの刀を持つ謎の美少女、レイン・ロゼが現れ劇場版サムライバー斬月 カウントダウンZeroの物語が始まるのかもしれない
でもそれまでは、のんびりダラダラゴロゴロ休んでてもいいよな? 俺、今回ばかりはかなり頑張ったんだからさ。ほんと、疲れたよ。
「兄貴、俺決めたよ」
「何をだ?」
「こうなったらもう死ぬまで親の、いや兄貴のすねをかじりながら、穀潰しのニート生活を満喫してやる! って」
「威張って言うことか、このバカ!」
「あいた!?」
笑顔で振り上げられた兄貴の拳骨が、俺の金髪頭に炸裂する。
我竜転生~少年漫画の悪役噛ませ犬に転生しちゃった俺の恐るべき生存戦略~
完?




